沈み込み帯の海底活断層の研究


従来にない高精度でプレート沈み込み帯の地形・地下構造を探査し、断層変形と地すべりの形態を把握するとともに、ピンポイントでの表層採泥を多点で行っています。これにより掘削で得られた深度方向のみの情報を面的に広げ、断層の変位・活動履歴の解明を目指しています。また、断層に沿った海底湧水の変動観測を行い、地下で発生する諸現象の把握を試みています。

無人探査装置NSS


活断層の活動履歴を調べる様々な方法


熊野沖の海底表層で捉えた巨大分岐断層

   

沈み込み帯で生じる多様な地震現象は、巨視的には付加体形成や造構性侵食作用 といった大規模なテクトニクスの微分的過程として位置づけられるとともに、微視的には剪断変形と反応・流体移動のカップリングプロセスとも考えられます。  私たちは、地質学的な時空間スケールの中で沈み込み帯の地震を物質から理解することを目指して、野外地質調査・深海掘削・海洋観測を組み合わせ、変形構造解析・鉱物/化学組成/同位体分析・物性測定・年代測定・実験などさまざまな手法を総合して研究に取り組んでいます。


ドローンを用いての露頭空撮と地質図作成(美濃帯)


地球深部探査船「ちきゅう」で採取した海洋地殻物質のコア試料

 


地震時流体移動を記録する延岡衝上断層の鉱物脈


アラスカ州コディアク付加体の野外地質調査



日本海溝に沈み込む海洋地殻と遠洋性堆積物の反射断面および解釈図
(反射断面図:JAMSTEC中村恭之氏提供)

 

 


南海トラフ津波地震を巨大化する新たな仕組みの解明


 本研究のポイント

1.南海トラフ沈み込み帯の浅部プレート境界断層(デコルマ)内部に存在する流体の分布が異なることが明らかになった。
2.デコルマの異なる流体分布とそれに伴う間隙水圧の変化は南海トラフの津波地震を巨大化する可能性がある。
3.この成果は、南海トラフ巨大地震・津波発生モデルの構築や、防災・減災対策に貢献するものである。

 研究内容の概要

 我々の研究グループは、南海トラフの反射法探査データを調べ、南海トラフの西部から東部にかけてデコルマの反射極性が負と正を繰り返していることを発見した。この結果に深海掘削データを加えた詳しい分析で、デコルマの内部に存在する流体の分布が異なることが明らかになった。デコルマの異なる流体分布とそれに伴う間隙水圧の変化は南海トラフの津波波源域を大きく拡大する可能性があり、流体が津波地震の巨大化を招く新たな仕組みとして示唆される。


図1 流体に富むデコルマを示す反射法探査断面図の例 (測線2)

デコルマ(青点線)を境界面として海洋性地殻が南海トラフ付加体の下面に沈み込んでいる。(図右上)デコルマと海底面の反射波を拡大して表示。海底面(赤-黒-赤)に比べ、デコルマ(黒-赤-黒)は負の反射極性を示す。

 

図2 流体に乏しいデコルマを示す反射法探査断面図の例(測線5)

デコルマ(青点線)を境界面として海洋性地殻が南海トラフ付加体の下面に沈み込んでいる。(図右上)デコルマと海底面の反射波を拡大して表示。海底面(赤-黒-赤)に比べ、デコルマ(赤-黒-赤)は正の反射極性を示す。


 

 

図3 津波地震において津波波源域が巨大化する仕組みの概念図

低間隙水圧のデコルマ域で津波地震の初期破壊が起こった場合、その地震性滑りがほぼ同時に周辺の高間隙水圧のデコルマ域へ伝播することで、津波の規模が更に大きくなる。