WHOLE EARTH 物質循環:地球46億年の表層環境進化と未来の環境


 ホモ・サピエンス誕生およびそれに至る地球の46億年におよび地球表層の環境変動は、生物(Bio)・地球(Geo)・化学(Chemical)の物質循環とエネルギー輸送によって決定されてきました。人類が現在利用している資源も「大鉱床は環境が作る」と言葉で表されるように、環境と資源は密接な関係があります。現在、途上国を中心に水問題がクローズアップされてきましたが、水循環に「水質」という情報を付加して、「水惑星」の地球に陸が存在する新たな意義を明らかにしたいと思っています。 20世紀に地球環境問題がクローズアップされました。人間が変え始めた地球環境が及ぼす影響を評価し、人類の将来について考えます。


人類を育んだ地球環境「考古・歴史学との共同研究」

 私達、ホモ・サピエンスは約20万年前にアフリカの北東部に誕生しました。その名前は「知恵のある人」という意味です。人類は世界中に居住する世界最強の動物として発展してきました。しかし、これは決して単純な発展ではなく、繁栄・衰退を伴うものでした。これに大きく影響を与えたのが気候・環境変動だったと考えられていますが、現在のところその証拠は極めて不十分です。ホモ・サピエンス誕生から、文明の創造、歴史時代の事件特に注目して環境を復元し、人類と環境の関係を解析しています。フィールドは日本、東南アジア、そしてアラビア半島です。
 弥生人が日本に移住してきて3,000年が経過しました。現代日本人は、基本的に古くから住んでいた縄文人と弥生人、渡来人の混血と言われています。日本の歴史も気候に大いに影響されたようですが、デジタル(定量的)の環境復元は非常に限られていました。図Xは瀬戸内海の堆積物コアから復元された、広島市近郊における紀元前1,000年から現代までの初夏のデジタル気温(アルケノン古水温計:AT)です。
最高気温は平安初期(830年頃)の25.9度、気温の極小は弥生時代開始頃(780年BC)の 23.8 度、平安後期(960 年頃)の24.0度、さらに文献より江戸後期(天明・天保)でした。   気候の人間社会への影響を評価するため、縄文時代、そして過去3,000年の環境を精密に復元しています。
     

陸域の水環境「アジアの水環境」



Manaka, T., Ushie, H. Araoka, D., Otani, S., Inamura, A., Suzuki, A., Hossain, H.M.Z. and Kawahata, H. (2015, in press) Spatial and seasonal variation in surface water pCO2 in the Ganges, Brahmaputra, and Meghna Rivers on the Indian subcontinent. Aquatic Geochemistry.

 地球は水惑星と呼ばれており、地球表層環境と水は密接に関わっています。特に、現代の人為起源の環境変化が最初に現れるのが陸域で、将来の地球環境を占う上で重要です。ラムサール条約に含まれる水環境(河川、湖沼、湿地、地下水、サンゴ礁など)を研究対象として、日本国内のみならず、ガンジス川・メコン川など海外の大河川や地下水の調査を積極的に実施し、海洋への影響も解析しています。
 南・東南・東アジアは、活発な化学風化+物理風化で特徴づけられます。新生代後期のヒマラヤ造山運動は大気の二酸化炭素分圧(pCO2)の減少に重要な役割を演じたとの有名な仮説があります。図Xはガンジス・ブラマプトラ川水系における河川水の二酸化炭素分圧(PCO2)で、上流高所(河口からの距離が長い)では化学風化により小さくなりますが、低地では土壌中の有機物分解により数千ppmに達し、河川から大気に二酸化炭素が放出されていることを示していました。河川は二酸化炭素の大気への供給源として機能しうると予想されます。

人類が変えだした地球環境「私達の未来を占う環境額」

 人類活動は20世紀、ついに自然の地球表層システムに影響を与えるほど大きなものとなり、地球環境問題がクローズアップされています。二酸化炭素は温室効果気体なので地球温暖化をもたらすとともに、酸性化気体なので、大気中の濃度の上昇は海洋のpHを下げ、有孔虫、サンゴ、貝などの炭酸カルシウム殻を溶解させるため、これらの生物は今後急速に衰退していくと予想されています。
 図はサンゴ礁の底棲有孔虫(Marginopora kudakajimensis)の飼育実験で、pHが下がるとともに急速に石灰化が抑制されることがわかります。さらに、 PCO2を精密にコントロールした場合に加えて精密飼育実験も行いました。炭酸系のイオン種をコントロールした。通常、酸性化すると石灰化は抑制されるのですが、逆に、殻の促進される種を発見しました。精密飼育実験などを通じて、人間が変え始めた地球環境が及ぼす影響を評価するとともに、過去の酸性化を復元し人類の将来について考えます。


精密飼育装置


Kuroyanagi, A. Kawahata, H., Suzuki, A., Fujita, K. and Irie, T. (2009) Impacts of ocean acidification on large benthic foraminifers: Results from laboratory experiments. Marine Micropaleontology, 73, 190-195. Hikami, M., Ushie, H., Irie, T., Fujita, K., Kuroyanagi, A., Sakai, K., Nojiri, Y., Suzuki, A., and Kawahata, H. (2011) Contrasting ocean acidification responses of calcification between two benthic foraminiferal species M. kudakajimensis and C. gaudichaudii, Geophysical Research Letters, 38.
     

 

太古の時代の「海水の化石」蒸発岩を使った研究

 海水を蒸発させると、徐々に塩分が上がり、やがて溶解しているイオンが過飽和となって析出します。その順番は、炭酸カルシウム(あられ石や方解石)、硫酸カルシウム(石膏)、塩化ナトリウム(岩塩)、マグネシウムやカリウムを含む塩化物や硫酸塩となっており、顕生代を通してその順番は大きく変わっていません。このような石膏や岩塩といった蒸発岩は、いわば太古の時代の「海水の化石」です。ここには、地質時代の海水の組成に関する情報が保存されています。私たちは、蒸発岩に残された過去の海水の情報を、さまざまな分析手法を駆使して読み解く研究に取り組んでいます。


シチリアの岩塩鉱山

シチリアの中新世末期の岩塩に残された岩塩層(透明)と粘土層(褐色)の互層の薄片写真(右)

岩塩は乾燥した夏に、粘土層は降雨の多い冬に洪水でできたと考えられている。岩塩には、結晶成長時に取り込まれた流体包有物が保存されている。

地球史において、大規模な蒸発岩体がさまざまな場所と時代で形成されてきました。大きいものは数100万立法キロの規模を持ち、その巨大さからSalt Giant と呼ばれています。最も若い時代のSalt Giantは、中新世の末期(およそ600万年前)に地中海~紅海で形成されました。しかし、厚い巨大な蒸発岩体がなぜ、どのようにできたかはよく分かっていません。私たちは、シチリア島などで採取した蒸発岩類を用いて、結晶のX線分析や同位体分析などから、地中海でどのように蒸発岩が晶出・成長したか、高塩環境にどのような微生物が棲息したのか、当時の気候はどうだったのかなどを研究しています。