|海底拡大と熱水系の研究|

地球の海洋底はどこで生まれているのでしょうか?新しい海底の大半は、中央海嶺と呼ばれる海底火山脈でつくられています。中央海嶺は発散型のプレート境界で、両側のプレートが離れていった隙間を埋めるようにマントル物質が上昇してくる場所です。実際には、離れた隙間を新しい地殻物質が埋めるという火成活動と、既に形成されている海底に正断層ができて水平方向に地殻が伸びるというテクトニックな伸張が同時に進行していて、多様な姿の海洋底が生み出されているのです(図1)。これらの中央海嶺は大洋の中央にありますが、日本のようなプレート沈み込み帯にも小規模な海底拡大が起きることがあります。沈み込み帯では海溝に沿って島弧の火山列が生じますが、この島弧が伸張場となると正断層による地殻の引き延ばしが起こり、やがて島弧地殻は切れて新しい海洋性地殻が生まれます。日本の南に広がるフィリピン海はこのようにして生まれた背弧海盆です。私達は、地形・地磁気・重力・地震探査などの地球物理的観測と岩石採取を組み合わせて、海洋底の誕生と進化を研究しています。

図1 
インド洋の海嶺三重点付近の海底地形。典型的な海洋底は、中央海嶺で付加した新しい海洋性地殻が両側に拡大しつつ正断層による変形を受けるので、海嶺に平行な尾根・谷の繰り返しの地形が生み出される。

 

図2 

2014年8月にAUVうらしま(海洋研究開発機構所有)を使って行った、沖縄トラフ多良間海丘の熱水系探査。水平分解能1m程度の詳細な地形、地質、磁気構造などの調査と同時に、熱水噴出孔から立ち上る熱水プルームによる海水異常の調査や水塊中の微生物研究なども同時進行する。下図は、この航海で新たに発見した新しい熱水噴出孔から立ち上るプルームをソナーが捉えたところ。

 

中央海嶺や背弧・島弧の火山にはしばしば温泉(海底熱水系)が伴っています。熱水系は、地球の熱や物質の循環に大きな役割を果たしており、また特異な生態系の母体ともなっています。熱水系の性質や付随する生態系は多様ですが、その多様性は熱水系の地質学的な背景に規制されていると考えられています。私たちは、沖縄トラフの背弧拡大系でAUV(自律型の海中ロボット)を利用した熱水系探査を行いました(図2)。熱水系は比較的小さいので、従来の観測船ではなく、ロボットや潜水船を利用した最先端の技術を駆使して調査をします。今回の調査では、精密な観測によって1m精度の地形を明らかにして断層や火山活動の履歴を明かにし、さらに新しい熱水噴出孔を発見しました。



海洋底の古地磁気・岩石磁気研究

過去のさまざまな時間スケールの地磁気変動を研究する古地磁気学と、その基礎となる地層の磁化獲得機構を扱う岩石磁気学は、地質学・地球物理学のみならず、古海洋学や生物学を含む広い応用範囲を持っています。海底の岩石や堆積物は古地磁気の記録媒体としてたいへん重要です。外核で生成される地磁気はマントル底部の影響を受ける一方、地球外部に磁気圏を形成して宇宙線入射をコントロールするなど、地球システムのさまざまな変動と密接に関係しています。気候変動と関係している可能性もあります。私たちは、海洋調査船やIODP掘削航海に乗船し、海洋底の岩石や堆積物を材料にして、地磁気に関する、あるいは磁気を手法としたグローバルな研究を幅広く進めています。


ハワイなどのマントル深部に起源を持つホットスポットの位置は不動として、過去のプレート運動を知るための基準としてこれまで用いられてきました。しかし、国際深海掘削計画の試料を用いた古地磁気研究から、ホットスポットは個々に運動することがわかりました。ハワイ・天皇海山列の掘削試料(ODP Leg 197)から、ハワイ・ホットスポットの緯度は約8000〜5000万年前の間に南へ約15度移動したのに対し、同じ太平洋プレート上にあるルイビル海山列の掘削試料(IODP Exp. 330)は、このような移動を示しませんでした。マントルの流動に影響されてプルームがたなびくとするマントルウインド・モデルが提案されています。

図1 マントル・ウインド・モデルの概念 写真1 ルイビル海山列掘削コアの例

走磁性バクテリア起源の磁鉄鉱が、海底堆積物中に広く存在していることが最近明らかとなってきました。海底堆積物から過去の地磁気変動を読み取ることができますが、生物起源磁鉄鉱はその記録媒体の一つとして重要です。また、化石として堆積環境の指標となる可能性があります。生物学と地球物理学の融合分野として、新たな研究の展開が期待されます。

 

 
 
写真2 
海底堆積物(インド洋南部)中の磁性鉱物の透過電子顕微鏡写真。走磁性バクテリア起源の磁鉄鉱は、磁石として最も安定になる形と大きさ(数十ナノメートル程度)に揃っている。