海底拡大と熱水系の研究

新しい海洋底は、ふたつのプレートが離れていく発散型プレート境界で生まれます。発散型プレート境界では、離れていくプレートの隙間を埋めるようにマントル物質が上昇し、その一部が溶融してマグマとなり、再び固結して海洋地殻となります。このような場所は地球の大洋を巡る中央海嶺と、日本のような沈み込み帯の背弧域にみられ、活発な火成活動と伸長場を反映した正断層系の形成が進みます。海洋地殻は世界中どこでも同じだと言われてきましたが、実はその構造にはかなりの多様性があり、その多様性はプレートの離れていく速度とマグマの供給率との比が規制していることがわかってきました。しかしながら、この比がなぜ場所や時代によって変動するのか、すなわち海洋地殻生産プロセスの時空間変動についてはまだよくわかっていません。

海洋地殻の厚さはおよそ7kmですが、海洋底でこの深さまでの地殻断面が天然で見られる唯一の場所がトランスフォーム断層と呼ばれるすれ違い型のプレート境界です。ここでは、中央海嶺と断層の交点(年齢0の海洋地殻)から水平方向に数百〜数千万年の海洋地殻が露出しています。私たちはこの天然のカベを使って、地球物理観測と岩石採取/分析を組み合わせて海洋地殻生産の変動を追跡しようとしています。
図1 MOWALL研究の概念図 図2 インド洋の長大なトランスフォーム断層。
再来年の調査を予定しています。
 

海底熱水系

中央海嶺や背弧・島弧の火山にはしばしば温泉(海底熱水系)が伴っています。熱水系は、地球の熱や物質の循環に大きな役割を果たしており、また特異な生態系の母体ともなっています。熱水系の性質や付随する生態系は多様ですが、その多様性は熱水系の地質学的な背景に規制されていると考えられています。私たちは、沖縄トラフの背弧拡大系でAUV(自律型の海中ロボット)を利用した熱水系探査を行いました(図2)。熱水系は比較的小さいので、従来の観測船ではなく、ロボットや潜水船を利用した最先端の技術を駆使して調査をします。今回の調査では、精密な観測によって1m精度の地形を明らかにして断層や火山活動の履歴を明かにし、さらに新しい熱水噴出孔を発見しました。

中央海嶺や背弧・島弧の火山にはしばしば温泉(海底熱水系)が伴っています。熱水系は、地球の熱や物質の循環に大きな役割を果たしており、また特異な生態系の母体ともなっています。熱水系の性質や付随する生態系は多様ですが、その多様性は熱水系の地質学的な背景に規制されていると考えられています。私たちは、沖縄トラフの背弧拡大系でAUV(自律型の海中ロボット)を利用した熱水系探査を行いました(図2)。熱水系は比較的小さいので、従来の観測船ではなく、ロボットや潜水船を利用した最先端の技術を駆使して調査をします。
今回の調査では、精密な観測によって1m精度の地形を明らかにして断層や火山活動の履歴を明かにし、さらに新しい熱水噴出孔を発見しました。

図3-1

図3-2

図3 沖縄の高温熱水系(私たちが物理探査で検知し(図3-1)、 2年後に生物・化学チームが探査機で写真を撮りました(図3-2)) [Chen et al., 2017]


海洋底の古地磁気・岩石磁気研究

過去のさまざまな時間スケールの地磁気変動を研究する古地磁気学と、その基礎となる地層の磁化獲得機構を扱う岩石磁気学は、地質学・地球物理学のみならず、古海洋学や生物学を含む広い応用範囲を持っています。海底の岩石や堆積物は古地磁気の記録媒体としてたいへん重要です。外核で生成される地磁気はマントル底部の影響を受ける一方、地球外部に磁気圏を形成して宇宙線入射をコントロールするなど、地球システムのさまざまな変動と密接に関係しています。気候変動と関係している可能性もあります。私たちは、海洋調査船やIODP掘削航海に乗船し、海洋底の岩石や堆積物を材料にして、地磁気に関する、あるいは磁気を手法としたグローバルな研究を幅広く進めています。

生物起源の磁石

走磁性バクテリア起源の磁鉄鉱が、海底堆積物中に広く存在していることが最近明らかとなってきました。海底堆積物は過去の地磁気変動を記録していますが、生物起源磁鉄鉱の果たす役割が注目されています。また、化石として堆積環境の指標となる可能性があります。生物学と地球物理学の融合分野として、新たな研究の展開が期待されます。



スケール=100 nm

 

写真 
海底堆積物(日本海)中の磁性鉱物の透過電子顕微鏡写真。走磁性バクテリア起源の磁鉄鉱は、磁石として最も安定になる形と大きさ(数十ナノメートル程度)に揃っている。

海洋底深部由来岩石学の研究

岩石は地球の辿ってきた歴史を解明するのに、必要不可欠な"物質"です。陸上での野外調査・研究調査船を用いた海底調査によりサンプルを採取し、研究遂行しています。特に大事にしているのは観察と化学分析です。以下具体例を見ていきましょう。

Topic 1

ホットスポット火山では,マントルの"カケラ"が含まれています(マントル捕獲岩と呼びます;図1a)。それを研究することで、地球の構成物質のうちマントルがどのような進化過程を辿ってきたのか明らかにしたいと考えています。その研究手段としては、マントル捕獲岩の白金族元素(PGE)含有量分析、Os同位体分析、PGEを含む極細粒鉱物の詳細な解析が挙げられます。極細粒鉱物の観察は信じられない世界を見ることができ、とても魅力のある面白い研究ができると考えています(図1b参照)。
写真 1a
海底堆積物(日本海)中の磁性鉱物の透過電子顕微鏡写真。走磁性バクテリア起源の磁鉄鉱は、磁石として最も安定になる形と大きさ(数十ナノメートル程度)に揃っている。
写真 1b
マントル捕獲岩中の包有物の3次元像と、そのうち1つを取り出して元素分析(Fe)した結果。

Topic 2

「中央海嶺熱水循環はマントルまで到達しているか?」という疑問に解を与える研究をしています。現在、熱水活動の関与で形成されたと考えられるマントル中の岩石(ディオプシダイト;図2a)の研究を遂行中です。その岩石中には水包有物(図2b)がたくさん含まれていて、その化学的解析をしています。海水由来熱水が中央海嶺でマントルまで到達していたら、海洋プレートの軟化に大いに寄与すると考えています。
写真 2
熱水活動の関与によりマントル中で形成されたと考えられる岩石(ディオプシダイト)写真。
写真 2b
ディオプシダイト中の水包有物写真。