クルーズ

 NSSの初の研究航海は,「かいよう」を用いて南海トラフおよび相模トラフにおいて平成15年9月27日から10月17日にかけて実施した(KY03-11,首席研究員:徐 垣(JAMSTEC)). 参加機関は,東京大学海洋研究所・海洋科学技術センター・産業技術総合研究所・東京大学地震研究所・北海道大学である.

 岸壁および東京湾内での機器の作動試験,海中投入・揚収試験を終え,遠州灘沖の正断層群で7地点,伊勢湾沖の横ずれ断層群において3地点,相模湾初島沖の冷湧水域において8地点で約1〜3mの柱状試料の採取に成功した.また,熊野トラフの水深2000mの地点において東京大学地震研究所の自己浮上式熱流量計の設置を行うことができた.
 採泥地点の水深は180mから1800mで,海底付近までケーブルを繰り出し採泥器を下ろし,海底監視用カメラで表層地質を観察しながらスラスターで移動し,目的とする地点においてピストンコアラーを切り離して柱状試料を採取した.遠州灘沖の正断層群は陸側に階段状に落ち込む形態をしている.採泥は,断層からの距離を変えながら断層を横断するように行った.採取された試料の層相は各地点で異なり,断層運動にともなう堆積作用の差を示す.伊勢湾沖の横ずれ断層群では,断層が海底谷を切断する地点において柱状試料を採取した.断層運動により,海底谷が上流部の供給源から切り離される時期を特定することによって,断層の活動時期と変位量の推定を目指した.実際に,上流部から下流部にかけて層相の大きく異なる試料の採取に成功している.相模湾初島沖の冷湧水域では,海洋科学技術センターによって設置された海底湧水量計周辺の,海底下の地質と湧水の地球化学の関係を明らかにする目的で採泥を行った.様々な設置機器の位置を確認しながらNSSのスラスター操作と「かいよう」の操船により目的とする地点を数mの精度で採泥できることを確認した.また,湧水によって形成された炭酸塩クラストの採取に成功した.本航海で得られた試料の分析は現在進行中である.


前半:渥美半島沖でのNSSを用いたピストンコア試料採取.御前崎沖から北東-南西方向に連続する海底活断層(遠州断層)の近傍において柱状試料を採取 し,断層の活動度の解明を目指す.着底によって巻き上げられた泥がリング状に広がる様子が見られる.
後半:熊野トラフでの自己浮上式熱流量計(東大地震研)の設置オペレーション.海底に約1年間設置し,地温勾配データの取得を行なう.観測終了後は,船 舶からの音響信号によってデータ記録部を浮上させ回収する.
相模湾初島沖でのNSSを用いたピストンコア試料採取.NSSは母船の操船とともにビークルのスラスターにより航走・停船が可能である.1番目の映像は,JAMSTEC初島海底ステーションの2基の水中ライトをNSSで確認したところ(画面左下).シロウリガイコロニー近傍の赤褐色バクテリアマット に設置された湧水量計(JAMSTEC)から約2メートルの地点で採泥を行なった.約1メートルの精度で採泥を行なうことが可能である.


JAMSTEC「かいよう」KY03-11航海におけるNSSを用いた採泥・機器設置作業

ピストンコアラーを用いた採泥
ERI 自己浮上式熱流量計の設置
相模湾初島沖の生物コロニー(KY03-11_PC12)
採取されたコアの例
PC13 シロウリガイコロニーから採取された柱状試料.シロウリガイの貝殻の密集した地層が見られる.コアは強い硫化水素臭がした.
PC16 相模湾初島沖の大規模コロニーの約200m東方から得られたピストンコア試料.西側の斜面(断層崖)からもたらされたとみられるタービダイトの暗色の砂層が狭在されている.砂層にはシロウリガイの貝殻片が含まれる.