調査航海概要報告

 

1. 航海番号/レグ名/使用船舶 : YK05-16/Leg.1/よこすか-しんかい6500

2. 研究課題名 : ロドリゲス海嶺三重点のテクトニクス、マントル、熱水、生物の相互作用 〜  地球物理学および地質学

3. 乗船研究者 :熊谷英憲、沖野郷子、上嶋正人、森下知晃、澤口 隆、中村謙太郎、根尾夏紀、澁谷岳造、佐藤太一

4. 調査海域 :中央インド洋、ロドリゲス海嶺三重点北側海域(南緯25.5度、東経70度)

5. 実施期間 :平成18年 1月11日から 1月31日

調査航海概要

 本研究航海は平成18年 1月11日にモーリシャス共和国ポートルイス港を出港し、インド洋中央部のロドリゲス海嶺三重点(南緯25.5度、東経70度)の北側に知られている2つの熱水フィールド−Kairei(南緯25.3度、東経70度)およびEdmond(南緯23.9度、東経69.6度)−周辺の海域において、有人潜水調査船「しんかい6500」による潜航調査を行った。きわめて良好な海況に助けられ、割り当ての10潜航全てにより、最優先と考えられた25°Sメガムリオンの地形・重磁力精査のほか、両熱水サイトとその周辺、現在の海嶺軸を調査し、加えて、広域サーベイ日と潜航予備日を用いての計760海里にわたる広域の地形・重磁力調査を行って、ポートルイス港へ入港した。

 本研究航海の主要な成果は以下の通りである。

1)    2000年と2001年に相次いで発見されたKaireiおよびEdmondの両熱水フィールドにおける現在の活動の確認。

2)    Kairei熱水フィールドを擁するHakuho海丘およびEdmond熱水フィールド付近の火山地質学的類似性

3)     Kairei熱水フィールド周辺における超マフィック岩(マントル構成岩)およびかんらん石に富んだはんれい岩の露出の確認

4)     Edmond熱水フィールドを擁する中央インド洋海嶺第3セグメントの過去200万年間を活動記録たる海底地形データの取得

5)     25°Sメガムリオンにおける2.5miles間隔稠密測線による詳細な海底地形・重磁力データの獲得

6)     中央インド洋海嶺第2、第3セグメント(CIR-S2, -S3)における海嶺軸の火山地質学的観察、試料採取

7)     25°Sメガムリオンの形成過程に迫る、畝状構造上での線構造観察並びに断層岩の採取

 

1) KaireiおよびEdmondの両熱水フィールドにおける現在の活動の確認

 インド洋における熱水フィールドの探索は1990年代より精力的になされてきたが、発見は2000年のKaireiフィールドが始めてである(Hashimoto et al., 2001)。ついで、米国を中心としてEdmond熱水フィールドが発見された(Van Dover et al., 2001)。熱水活動の寿命・消長については議論があり、なかには、大西洋TAGフィールドのように長い寿命を持つものも知られてはいるが、さほど長くはないものとする考え方もある。第918, 923の両潜航により、発見から4〜5年を経た両熱水フィールドの活発な湧出と周辺の活動を停止したデッド・チムニー群を確認したことは、重要な成果といえ、引き続く、Leg.2航海での詳細な熱水化学・(微)生物学の調査への下地となった。

 

2) Kairei熱水フィールドを擁するHakuho海丘およびEdmond熱水フィールド付近の火山地質学的類似性

 Kairei熱水の水素含有量が非常に高いという特異な性質の起源として、超マフィック岩の主要構成鉱物であるかんらん石の蛇紋石化プロセスの関与が有望である。したがって、当初、Hakuho海丘そのものが超マフィック岩の露出体ではないかとの予測を持った。しかし、第918潜航では、中央インド洋海嶺第1セグメント北端の海嶺軸崖から斜面を観察したが、枕状溶岩の積み重なる露頭であった。さらに、Kaireiフィールドを経由してHakuho海丘頂部までの平坦面は起伏の少ないシート状溶岩であって、むしろ、火成活動の盛んな時期の形成であることが示された。第923潜航で観察されたEdmond熱水フィールド周辺の火山地形も同様であって、かけ離れた両熱水の性質にもかかわらず、周辺数キロメートル程度の範囲は火山地質学的には非常に類似していることが明らかになった。これは、熱水の起源をより広い範囲のテクトニクスと関連づけて理解するべきことを示す重要な成果である。

 

3) Kairei熱水フィールド周辺における超マフィック岩(マントル構成岩)およびかんらん石に富んだはんれい岩の露出の確認

前項の成果より、周辺の探索に注力し、3潜航を25°Sメガムリオンへ、2潜航をHakuho海丘東方の高まり(以下、URANIWA-Hillsと称する)に割り当て、マントル構成岩であるかんらん岩類の露出箇所の捜索に費やした。このうち、第919潜航によって25°Sメガムリオンの海嶺軸側斜面水深2200m付近において蛇紋岩化したかんらん岩2試料を得た。また、第925潜航では、URANIWA-Hills北側斜面の水深3170mにおいて斜長石を含むダナイト(殆どかんらん石からなる岩石で地殻−マントル遷移層付近に特異的に産するとされる)ほか、かんらん石にきわめて富んだはんれい岩を採取した。このはんれい岩は最大で50%に及ぶかんらん石斑晶を含み、超マフィック岩ではないものの、かんらん石の割合が非常に多いことは特筆に値する。これにより、Kaireiフィールド熱水の特異性の地質学的背景はほぼ突き止められたものと考える。

 

4) 中央インド洋海嶺第3セグメント過去200万年分の海底地形データの取得

 一方、Edmond熱水フィールド周辺にはそのような特異な深部岩石の露出を伴うような地形は全く見られないことが、広域の地形調査で明らかになった。調査範囲は海嶺軸より東西とも35miles程度の範囲で行ったが、海嶺軸に平行なabyssal hillsが発達しており、周囲に25°Sメガムリオン、あるいは、URANIWA-Hillsのような地形は認めることができない。

同時に取得された重磁力データを加え、通常の海底拡大がどの程度の期間続いていたのか確認することができよう。

 

5) 25°Sメガムリオン稠密海底地形・重磁力データの獲得

 3項で述べたようにKairei熱水フィールド近傍で、海底面に現在地殻深部〜マントル最上部を構成する岩石の露出が確認されたが、潜水艇での観察・試料採取が海底面に限られることは言うまでもない。通常の地形調査より稠密な2.5miles間隔の測線で得られた船上重力・地磁気データと海嶺軸に直交するトランセクトをなすように行われた第919〜921潜航で得られた深海三成分地磁気データによって、地下構造についても制約を与えることができよう。

 

6) 中央インド洋海嶺第2、第3セグメント(CIR-S2, -S3)における海嶺軸の火山地質学的観察、試料採取

 2つの熱水サイトを擁する中央インド洋海嶺南端の地質学的背景の理解には、テクトニクスに加えて、火成活動の観点からの検討が不可欠である。このうち、比較的検討が進んでいるロドリゲス海嶺三重点付近に対して、北側のCIR-S2, -S3はデータが乏しい。4項で述べた地形情報に加えて、両セグメントの海嶺軸谷内小海丘における2潜航(第926, 927潜航)での観察と試料採取は、両セグメントにおける火成活動の詳細を検討するに有用なデータをもたらすであろう。

また、CIR-S3南端の海嶺軸上を占める鏃状の高まり(Knorr海山)は重力異常データから火山体であることが示唆されていたが、実際の潜航(第924潜航)により、主に玄武岩質のシート状溶岩からなることが確認された。比較的噴出量の大きなマグマ活動により形成されたと考えることが妥当であろう。海嶺軸谷に対応した地溝様構造が中央部に認められること、堆積物による被覆の度合い、厚いマンガンの被覆などから、現在は活動を終えていることが推定された。

 

7) 25°Sメガムリオンの形成過程に迫る、畝状構造上での線構造観察並びに断層岩の採取

 メガムリオンの形成過程についてはいくつかのモデルが提出されているが、大西洋アトランティス岩体(Atlantis Massif)の掘削等を通じても、なお議論の分かれているところである。第920, 921潜航では、ムリオン上面に発達する畝状構造(corrugations)に沿って、シービームでは捉えきれない微地形を観察しながら、試料採取を行った。目視およびビデオ映像によって、畝状構造と平行な線構造(striations)が確認された。また、変形・断層岩とその原岩とおぼしき岩石とが同一もしくは近傍のサイトで採取されたことにより、変形条件、その機序などメガムリオンの形成過程に迫るデータが得られることが期待される。

図:本調査行動で取得された海底地形データを含めた調査海域の海底地形図