Polar Ridges Meeting and Workshop

Sestri Levante, Italy, Sep 19-25, 2006
海洋研・沖野郷子

 

全体像:

 インターリッジが主催したワークショップで、19日は会議前巡検、20-22日の3日間がワークショップ、23-25が会議後の巡検という日程で、イタリアのジェノバ南東の海岸リゾート地セストリレバンテで行われた(会議後の巡検はFrench-Italian Alpsだったので移動)。参加者は約50名、半数くらいが米国、開催地イタリアから学生含め10名程度、残りが独・仏・露・韓国・日本・英国・スイスなどから1〜数名づつ。日本からは私(沖野)のみが、ワークショップと会議後巡検に参加。アルプスのオフィオライトをやっている陸の研究者がかなり参加していたことが特徴。この会議の前に、スイスでIODPのcontinental break upのワークショップがあったため、そこから流れてきた人もかなりあり。ワークショップの目的は、さまざまな分野から超低速拡大海嶺研究の現在の状況を議論し、今後どのように超低速拡大系(メルト不足系)の研究を進めるか、そしてon-land analoguesとの協力をいかに推進するかについての意見交換を行うことである。

 ワークショップの構成は、初日は丸一日講演が続き、過去数年間の北極海海嶺・アルプス・MARのコアコンプレックスなどの研究成果が発表された。この日は招待講演含め、過去の大きな航海のまとめ講演がかなりあったため、新しいことはあまりないが全体像はつかみやすい。2日目の午前も講演が続いたが、ひたすら岩石学でスパイダーグラムが延々続き、非岩石屋にはたいへんつらい。エスケープする地物屋・熱水屋多数。午後は最初のワーキングセッションということで、まずコンビーナがガッケル海嶺研究発展の重要性を述べたあと、各国の状況報告。そのあと、テクトニクス、岩石、熱水の3つのグループにわかれて、これから何が重要であるかについてのブレーンストーミング。3日目も、午前中は講演で、主に熱水探査とその他もろもろ、午後がまとめのセッションで昨日分かれた3つのグループから出された項目を整理して、それぞれの科学目標に対してどのような場所を調査するのが良いかといった議論がなされた。

 講演内容のめぼしいもの:

米国は、1995-2000に海軍の潜水艦を使って北極海海嶺の調査を行ったSCICEX計画(マルチビーム測深とサイドスキャンソナーが中心)、そのあとにドイツとの共同計画で砕氷船+調査船2隻体制で実施したAMORE航海(岩石採取、熱水調査含む)とガッケル海嶺の調査を進めてきた。今回発表があった結果は、既にNature誌にpreliminaryな報告として公表されたものが多く、あまり目新しいことはない。レナトラフ(ガッケル海嶺とクニポビッチ海嶺の間)の調査速報が新たになされたが、ここもガッケル同様に明瞭なセグメント構造がなく、全体に海嶺軸に斜交する構造多数、fertileなマントル岩が多数採取されたようで、成熟した海嶺軸ではなく一種のリフトだ、という解釈をしていた。航海計画としては、来年の夏にウッズホールが制作中の新しいAUVによるガッケル西側(ヨーロッパ側)の熱水調査が予定されているということで、作成中AUVの紹介があった(2機つくっている、このあと利用は公募になる)。SCICEXで得られた地形・ソナー等のデータはこの年末頃にウェブで公開される予定。

 印象:

全体としては、H. Dickとその一派がEastern Gakkelにいくプロジェクトをつくりたくてそれを国際的にオーソライズしたい、という意図がかなりくっきりしていて、あまりにその色合いが濃いので一部参加者は今後の動きにも距離をおきたいと思っている様子がありあり。前回のAMORE計画は、米独の共同プロジェクトで、はじめて北極海海嶺の姿がうかびあがったという点ではたいへん評価できると思うが、概要報告が出たあとに詳細な結果がぜんぜん出てきていない、データや成果がごく一部で占有されているなど批判も多いようで、やり残したEastern Gakkel(ヨーロッパから遠い側)に行くにあたって、よりマルチナショナルな枠組みで合意があるといわないと予算がとれない、ということらしい。会議の名称は、Polar Ridgesであって、北極海海嶺に限っているわけではなく南西インド洋海嶺を含むとされていたが、SWIRの調査にこれまで実績のあるフランスの海嶺系グループからはひとりもこのワークショップに出席していないし(そもそもワークショップのorganizing committeeにフランス人を入れていない)、とにかく最初からEastern Gakkelありきという印象である。Eastern Gakkelはもちろんセッティングとしては非常に面白いところで、拡大速度が真にゼロに近くなる究極のエンドメンバーで、そこで海洋性地殻形成プロセスがどうなるかは重要である。また、大陸・passive marginとのリンクという点でも興味深い(ということで今回アルプスに大陸・海境界が出ていると考えるグループが参加)。が、場所柄ゆえ大陸からの供給が多くかなり堆積物に埋まっていることが予想されているため、例えばプルーム探査などのグループはもともと全く乗り気でないし、マントル岩のサンプリングも西側よりかなり難しいのではないかとの意見も多い。ちなみに、韓国では近く砕氷船ができるので、Gakkel推進派は韓国を取り込もうとしているようだった。

 日本に関連する情報:

各国状況説明を求められたので、現在InterRidge-Jとして予算がとれていなくて厳しい状況にあり、当面北極海へ乗り出す予定はない、国際極年にあわせて複数の船が南極海に行くが、海嶺系としてはSWIRのAndrew Bain FZ付近の調査を白鳳丸で行うことが予定されていると説明した。日本の砕氷船について質問が出たが、現在の船は非常に古くマルチビーム測深もできないし、南極基地への補給専門である、代替船の計画は進行中でおそらく測深器等は装備されるが、基地補給ルート以外に利用が可能になるのかを含めまだ詳細はわからない、と答えておいた。

 また、SWIRで来年度・再来年度白鳳丸航海を予定しているところの一部について、イタリアグループ(Ligi & Bonatti)が今年のはじめに、ロシアと共同でロシア船を利用してほぼ同じ海域にいっていることがわかった。研究目的がかなり違うが、FZ沿いの岩石サンプリングなどは我々が予定していたことの一部がこの航海で行われたようなので、クルーズレポートを送ってもらうこと、連絡をとりあって白鳳丸航海とうまく協力する可能性をさぐることを約束した。来夏のウッズホールの新AUV航海については、主席のR. Reves-Sohnから、日本からEhセンサと磁力計を持ってぜひ参加してほしいとの要請あり(去年いちど連絡があって野木さんがコンタクトパーソンとなっていたが、しばらく連絡が途絶えていた)。

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以上がおよその報告ですが、ワークショップの最終結論として、将来の計画をこのあと具体的に立てて推進していくために、インターリッジに新しいワーキンググループを提案し、継続してワークショップ等を開いて現実的な研究計画をたてていこう、ということになりました。会場の話では、(少なくとも名称は)ultraslow ridgesのWGということだったのですが、会議から帰ってみるとワーキンググループへの参加の意思確認のメールがきていて、やはりというか早くもというか[Eastern Gakkel WG]になっていたので、ガッケル海嶺研究のWGになると思われます。私は東ガッケルは重要な位置にあるとは思いますが、埋積しているし自分で何かできることはあまりないので、個人的には積極的にかかわる気持ちはありません(広く超低速系ならやる気もあるが)。ただ、このメールに返事はしないといけないので、もし自分はガッケル海嶺に興味があって将来(多分7〜10年計画になる)関わっていきたいという方があれば沖野まで今週中にご一報ください。