2006年InterRidge Steering Committee meetingの報告

InterRidge Steering Committee委員

島 伸和(神戸大学)

2006年のInterRidge Steering Committee meetingは、モスクワのVernadsky Institute of Russian Academy(ホストは、Sergei A. Silantyev)で、6月14-16日の日程で行われた.出席者は、Donna Blackman(米)、Colin Devey(独)、Jérôme Dyment(仏)、Valérie Eppl?(Coordinator InterRidge Office)、Kristen Kusek(InterRidge Education and Outreach)、Jian Lin(米)、Steve Scott(加)と私で、Principal memberであるイギリスからの委員が欠席した.最終的な議事録は、InterRidgeのWeb siteで公開されるので、ここでは、私のメモをもとに、要点のみ報告する.

InterRidge memberに変更が生じた.まず、カナダは、予算を確保できずmembership feeが払えないため、Associate memberからCorresponding memberに、逆に、スペインは、Corresponding memberからAssociate memberに、member statusを変更した.また、ロシアは、会場となったVernadsky Institute of Russian Academyの所長との会談で、Associate memberのmembership feeを払うことを示唆した.なお、日本は、InterRidgeのための予算を獲得できなかったが、4機関(JAMSTEC、東大海洋研、国立極地研、神戸大)で分散して負担することでmembership feeを支払って、Principal memberにとどまることを表明した.

次期のInterRidge Office(2007-2009年)にアメリカのWoods Hole Oceanographic Institution(WHOI)が立候補した.他の立候補がなかったので、WHOIの提案を審議し、これを承認した.提案では、広い分野をカバーしてScienceを推進するため、Chair(Jian Lin)とCo-Chair(Chris German)制の採用している.審議のなかで、WHOIの人件費が高く、Coordinator(ポスドク相当)を雇うのに、$90k(benefitsを含む)とそれに対するoverheadが$80kと高すぎることに懸念が出た.しかし、少なくとも初年度は、overheadに相当する分をWHOIからInterRidgeに援助金として支援することが認められたとのことなのでその分の軽減できること、次年度以降は今のところ不透明だが、同じようになるように努力をするとのことで了承した.

今回、最も大きな議論となったのは、InterRidgeそのものが、海嶺系のScienceそのものより、海嶺系研究の活動度が低い国にこれを普及することや、EducationとOutreachに、力点を置きすぎている点である.特に、国内でRidgeプログラムが動いているアメリカとドイツを除き、直接Scienceの結果とならないInterRidgeに支払う分担金を、Funding Agencyから獲得することが難しく、現状のままでは、今年予算が獲得できなかった日本、カナダ同様に、フランス、イギリス、韓国も分担金負担を維持することが難しいという表明があった.このため、InterRidgeの活動はScienceを最優先事項にすることを再確認した.具体的には、InterRidgeの最初の10年との違い(特に通信環境が劇的に変わったために、情報のやりとりや情報の共有の仕方が変わったこと、さらに国際共同研究が容易になったこと)を認識し、InterRidge Working Group(WG)の役割を見直して、Scienceを推進することになった.また、EducationとOutreachの力点の置き方も見直すことになった.

WGの役割の見直しについては、まず現状の認識を行い、どのように見直すかについて話し合った.現状の認識としては、活動が止まっているWGが複数あること、またWGにはライフサイクルのようなものがあり、シンポジウムやワークショップを開いてその後次のステップ(国際共同で調査航海を持つ等の国際共同研究)が起こらない場合は、WGの役割は終了したと考えるべきであるとのことで一致した.WGの役割は、1)シンポジウムやワークショップを開催すること、2)国際共同で調査航海を持つ等の国際共同研究を進めること、を実現して海嶺系のScienceを具体的に推進するとした.また、概ね2年という期限をめどにこれらのいずれかを実施することとし、もし実施されない場合は解散させる.これらの準備に$2kを限度にOfficeから援助し(新規事項)、シンポジウムやワークショップの開催には従来どおり$3kを援助する.この方針のもとに、現在のWG-ChairにWGを存続させる意志があるか、ある場合どのような方向性の活動を考えているかを個別に確認し、存続させるか解散させるかを決めることになった.また、新規のWGを募集することになった.募集要項についてはOfficeで準備するが、少なくとも提案には、1)InterRidge Next Decade Science Plan 2004-2013の内容を反映させていること、2)WGのメンバーが複数の国からのものであること、を条件とすることが了承された.このため、ロシアが事前に考えていた新規のWGの提案(熱水系の鉱物関連:ロシアにはこの関連のデータが随分たまっているようだ)は、新しい枠組みに沿って再提案するように促す.また、日本側で準備していた、WGのメンバーの追加したいという点は、WGの存続が決まった時点でWG-Chairに提案する必要がある.今後、日本を中心に、新規のWGを提案することも考えるべきだと感じた.

EducationとOutreach(InterRidgeのWeb siteで公開されている)に関しては、英語を母国語とする国には利益があっても、英語圏以外の国にはほとんど意味がないという指摘がなされた(フランス、日本、韓国).さらに、分担金の使途に関してFunding Agencyに説明をする時に、英語圏以外の国では、英語圏の人々のために使っているというのでは、納得が得られない.予算に余裕があって使っている予算が少ない場合ならともかく、実際に使っている予算は多く、予算全体に占めている割合も大きい(2005年実績、2006年予算のいずれもInterRidge Education and Outreachの人件費だけでも$61.5kもの支出をしており全体の1/3を占める).特にフランスからは、Scienceは英語でというのは仕方がないにしても、EducationとOutreachはフランス語含む他の言語もあるべき→予算がないのでどうにかしてもらったら可能→英語圏以外の国もすでに分担金を支払っているという認識すらないとの強い不満が出た.この結果、上に書いたようにInterRidgeではScienceを最優先事項にすることを再確認した.現在のInterRidge Education and Outreach担当者を目の前にして、厳しい意見を出したりもしたが、結局、今年の予算としては現状のまま、来年OfficeがWHOIに移った初年度は、分担金からではなくWHOIからの援助金でEducationとOutreach分を対応し、再来年以降に関しては、次のSteering Committee meetingまでに見直すことになった.各国でEducation and Outreachのプログラムが立ち上がっていて独自に行っているようなので、InterRidgeは、これらの実施機関(もしくは担当者)の連携が図れるように橋渡しに徹する方がよいのではという提案があり、見直しではこれを含めて検討することになった.なお、EducationとOutreachの活動に関する報告もなされた.

Outreachの一環として企画した"Oceanography" magazineの現状報告があった.2007年3月に138ページで発行予定.発行に必要な$60kのうち$5kをInterRidgeで負担することを了承した.その他の負担は、ChEss($5k)、DeRidge($5k)、NOAA($15k)、NSF($20k)で、まだ$10kほど足りていない.発行分の支払いで500冊は無料でもらえるが、追加注文分は1冊わずか$2程度なので、これに上乗せした価格で販売すれば、それで不足分がまかなえる判断.本の形が具体的に見えてくる9月の時点で、具体的にどうするかを判断することになった.

最後に各国からの活動報告を記す.正確な内容は、秋に発行させるInterRidge Newsを参照のこと.日本の分は、InterRidge-JapanのWEBページに挙げている内容をまとめて紹介.

ロシア: 大西洋中央海嶺(6°Nおよび12-17°N)で調査(岩石鉱物)を実施.Russian-Ridgeの会合を2007年9月に開く.

アメリカ: East Pacific Rise 9°50'Nでの最近の噴火の報告.Juan de Fuca海嶺にあるRegional Cabled Ocean Observatoryのケーブルコネクションが2006年夏に終了.ケーブルにつなぐ機器のプロポーザルを秋から受け付ける.Alvinの後継で6500mまで潜れる潜水船(Alvin?)を造ることを進めている.

中国: 世界一周航海を無事に終了.7000mまで潜れる潜水船のための試験を行っている.2船目の観測船を作る動きがある(潜水船の母船?).

フランス: 大西洋中央海嶺MoMARサイトに集中した各種の航海を実施ならびに実施予定.

カナダ: InterRidgeのための予算の獲得に失敗.直接Scienceの結果とならない予算が必要であるが、現在の予算のシステムでは今後とも取れる見込みなし.2000mまで潜れるAUV(Roposの小型版)が利用できるようになっている.船上部分が小さく、利用できる船の幅が格段と広がった.また、資源会社が、マヌスと北フィージー海盆の熱水堆積物(銅や金等)をターゲットにした資源アセスメントを8月から実施予定.Alvinをレンタルして行う物理探査等や32地点でのドリリングを予定.予算規模$7M.

ドイツ: 大西洋中央海嶺(5-9°S)のAUV、ABEを使った航海を実施.AUVを買う予算が付くかどうかが10月には通知される.Woodlark Basinのプロポーザル(2009年実施の計画)を申請中.