2007年InterRidge Steering Committee(国際海嶺研究計画運営委員会)報告

代理出席:JAMSTEC 熊谷英憲


概要:

2007年のInterRidge Steering Committee meetingは南米での海嶺研究の推進のため、ブラジル連邦共和国・リオデジャネイロ市にてブラジル地球物理学会年会と連動する日程で行われた。会場はIntercontinental Hotel(ホストは、Sidney Melo, LAGEMAR-UFF、伯)で、11月17-18日の2日間で行われた.出席者は、Donna Blackman(米)、Colin Devey(独)、Fran?oirs Gaill(代理), Stephane Hourdez(仏)、Rhian Waller, Stace Beaulieu(Coordinator InterRidge Office)、Kristen Kusek(InterRidge Education and Outreach)、Jian Lin(Chair米)、 Chris German(Co-chair米)、Sung-Hyun Park(韓)、Suzanna Sichel(伯)、石橋純一郎(九大)と島伸和(神戸大)の代理としての私で、Principal memberとしてはイギリス、来年度のPrincipal member化を表明している中国、Associate memberではインド、ノルウェー、スペイン、ポルトガルからの委員が欠席した.Working GroupChairとしてはDeep Earth SamplingのBenoit Ildefonseが出席。また、南米諸国における海嶺研究の振興の観点から、ゲストとしてJuan Diaz-Naveas(智)、Marcia Maia(仏)が招かれた。最終的な議事録は、InterRidgeのWeb siteで公開されるので、ここでは、私のメモをもとに、要点のみ報告する.

議事概要:

1:メンバーステータス

2008年から中国が主メンバー(Principal Member)となるに伴い、運営委員会へJohn Chenに加えてもう1名が加わることになる(Jiabiao Li)。ロシアとニュージーランドがAssociateMemberへの移行を、台湾がCorrespondingMemberでの加盟を希望している。

2:コーディネーター活動報告

2007年に国際事務局が独・GeoMARから米・WHOIへ移動し、それに伴う作業が多く発生した。移転作業は順調に行われた。同時に、websiteも移転し、freeのopen-sourceメンテナンスツールを用いて再構築された。国連の第8回Open-ended Informal Consultative Process on Oceans and the Law of the SeaにInterRidge Officeとして招致され、Inter Ridgeのstatement of commitment to responsible research practices at deep-sea hydrothermal ventsについてWHOIのM.K.Tiveyがプレゼンテーションを行った。(http://www.un.org/Depts/los/consultative_process/consultative_process.htm)。

3:教育・アウトリーチコーディネータ活動報告

出版物として、Oceanography誌での特集号の発行をみ、また、より一般向けとしてはWHOIの広報誌であるOceanus(2007年10月号)に記事掲載となった。昨年問題とされた非英語圏主要メンバー国へも利益となる活動として、米国NASA, NSF, DoSへの働きかけを継続し、国際的な科学研究アウトリーチの枠組みであるGLOBE(http://www.globe.gov/)やその一部であるFLEXE(From Local to Extreme Environments)へのplug-inを検討した旨報告がなされた(しかし、その意義については懐疑的なコメントもあり:日本の対応窓口は文科省)。Science-Writer-at-Seaは継続。NOAAなどへfundの申請をするも獲得に至らず。事務局費用の増加に伴い、コーディネーターをfull timeからpart time雇用として人件費を圧縮するにあたり、アウトリーチのitems全てを継続することは不可能であるとの見通しが示され、優先度について議論がなされた:ただし、事業の取捨選択のコンセンサスを得るには至らず。2008年の主要なイベントとして、バルセロナで開催のEuroScience Open Forum、そのほか、やや規模の小さい(ローカルな)イベントである、ROVコンテスト(Scripps主催?)など。

(補足)

前回、最も大きな議論とされた、InterRidgeそのものが、海嶺系のScienceそのものより、海嶺系研究の活動度が低い国にこれを普及することや、EducationとOutreachに、力点を置きすぎている点については、改善が模索されているとして、引き続きの検討を促す程度にとどまった.しかし、Pricipal Memberの内、日、仏は言語のディスアドバンテージがあるので、現在の方針でも不満は残るとの表明がなされた。プレゼンスがwebsiteにおいてすらみられないという不備がより不満を助長しているとの指摘により、少なくとも、websiteのトップページについてはPrincipal Member国の言語で用意されるべきであるとの提案は好意的に受け取られた(ただし、各国委員が責任を持って翻訳すべし、という結論までには至らなかったが...)。

4:新ワーキンググループ(WG)の提案審査

昨年度の運営委員会方針に基づき、6月末日締切でWGの提案を受け付け、6カ国のPIから7件の応募があった。事前に回覧した提案書を運営委員会メンバーらで審査し、集計された順位にもとづいて議論された。第4位と第5位との間に大きく差が付いたことで、基本的には上位4提案に対して、採択を前提とした修正を求めることで合意された(修正期限は12月末)。うち、第3位のSeafloor mineralization WGについては、資源開発に対するポリシーの議論を含むという提案であったが、運営委員会で検討すべき内容であるので、科学的議論に限定するように求め、それを受け入れるようであれば採択するという条件が付された。また、第5位については、既に充分に進行している研究内容についての提案であるので、WGの性格として、充分に成熟した課題を扱うWGもあって良いのではないかとする肯定的な評価の反面、必ずしも、WGを組織して推進する必要は低いのではないかという否定的意見と、そもそも、5つめのWGを立ち上げ、援助する余地は予算的にないという評価となり、却下された。従って、採択可能性のある4つの提案は以下の通り(InterRidge Newsletterならびに12/31配信のメールニュースでも確認できる):Imaging Crustal and Mantle structure beneath Mid-Ocean Ridges(PI: N. Seama, Japan)、Vent Ecology(PIs: C.  Fisher, USA and S. Hourdez, France)、Seafloor Mineralization(PI: M. Tivey, USA)、Systematic Long-range Ridge Exploration(PI: Colin Devey, Germany)。

5:National Updates(多くの時間が割かれたが詳細はNews letter参照。印象に残った点のみ)

中:08年中に7000m級有人潜水船の試験予定。WHOIの協力を得、パイロットの訓練をAlvinのシップタイムを購入して実施。ほか、11000m級ROV、4500m級有人潜水船、AUVの計画進行中。

仏:MoMAR、およびMAR15Nのプロジェクトが目玉。地球物理ではBBOMAR、生物ではRainbow-Gabbroの調査計画。

独:ROV "Kiel6000”をScrippsで建造、07年6月にNZ沖で試験研究潜航を実施。08年3月にNileデルタの調査を計画。AUV ”ABYSS”w/SeaBAT7125(200/400kHz Sonar)・EDGTECH2200M(Side-Scan-Sonar/Sub-Bottom-Profiler)を装備予定。

米:Ridge2Kの集中観測サイト(ISS)にMAR35-37.5°Nを加える(ファンデフーカ、EPR8-11°N、LauBasinに加えて)。これに対応して開かれるワークショップにヨーロッパのMoMAR関係者をリエゾンとして招待する。Neptuneについてはカナダ側のケーブル敷設は2007年に済み、2008年に観測機器の設置となるが、US側は遅れており、2010年に敷設の見込み。

韓:

2009年の70日間訓練をめざして砕氷船(砕氷能力1m)を建造中。 Bransfield 海峡 にハイドロフォンアレイを設置する計画。南極までのトランジットを利用して海嶺研究を実施する可能性あり(

ターゲット海域:Ayu-trough(フィリピン海プレート南端), Manus、太平洋南極海嶺 、 Phoenix ridge)

英:

ROVと新船がノルウェーで建造中

なされた航海:15N MAR (PI: Searle), Hess Deep(PI: McLeod), 45N MAR (PI: Searle) MAR-ECO

(part of census of Marine Life)。新プロジェクト:Antarctic East Scotia (helium-3 rich water cross section); Drake Passage: 3 cruise, water column, dive on the vent side; HESS deep BGS drill調査。

NZ:

北島北側のTaupo火山帯の延長にあるbrother volcanoでGNS & NIWAの調査 (NOAA &ABE- mining)。seafloor mineralisationの観点でAUVへの関心が高まっている。

6:南米における中央海嶺研究

ブラジル:

 ブラジルでは、15の大学に海洋を対象にする研究者があり、主として沿岸の資源、特に原油について積極的な構造探査などを行っている。構造探査はPetroBras(ブラジル石油公社)にコントロールされているが、比較的良好なデータアクセスが実現している(3次元構造探査データなどは非公開ではないかとの指摘はされた)。自前の研究船を持たないが原油供給は安定しているので、給油など補給で便宜を図ることはできるだろうとの見通しが語られた。

 フランスと共同で赤道域大西洋のSt.Paul-St.Peter Rocks(EEZ申請上の理由により近年はArchperagioと称するようである)を含む多重断裂帯でのノチール潜航調査がなされ、極めて変形したかんらん岩などが採取されている。低角のデタッチメント断層が見られないため、OCCと見なしにくいが、海嶺軸と断裂帯の内角高地に相当する部位が海面上に露出しているという特異なセッティングについて強い関心が示された。

チリ:

チリでは、2010年の運用を目指して漁業資源調査と海洋調査兼用の調査船建造が進んでいる。

マルチナロー測深儀(10000m-class)、グラブ採泥、12mコア採泥、ADCPなど基本的な海洋調査能力を備える計画であるが、昨今の原油価格の高騰により、運航費用の確保に困難があると紹介された。大陸縁辺域に関心が集中し、なかでも、北部沿岸でのガスハイドレート調査、海溝へ海嶺が沈み込んでいるチリ沖三重点、チリライズが主なターゲットであることが紹介された。主な研究機関:コンセプシオン大学、バルパライソカトリック大学。

7:現行ワーキンググループの活動報告

活動がサイクルの終わりを迎えつつあると思われるWGについては継続やいなやの意思確認が事務局よりなされることとなった(2008年1月締切)。対象:Deep Earth sampling, Ultraslow。特に、UltraslowはJohn Snowの異動でWGの構成要件を満たさないが、フランスと中国(Tao)をメンバーに加えて再構成すればよいのではないかとの指摘。少なくとも、なすべきことが有って、コミュニティに広く募集がなされねばならないとの意見。

8:ワークショップ等報告

Data WS:

まず、データへのオープンアクセスの文化から醸成が必要。例えば、ISO-baseの統一フォーマットなど、必要性は理解できるが、現状ではデータセンターへ登録するincentiveはサイエンティストには低いとの指摘。

IRTI:

非常にimpressiveなlectures and presentationsであったとの報告(日本からの参加者のレポートが既に公開されており、それ以上の詳細は無し)。

9:若手育成:

島の提案による若手育成のためのTheoretical Institutionは良いアイディアとして賛意を得、実現に向けて予算獲得の努力を各国で講じることが合意された。Student Fellowshipについては、予算的裏付けは厳しいが、ともかく募集を始めることで合意。

10:2006年決算、2007年執行状況、2008年予算案

2006年運営委員会で宿題とされた項目別執行状況について承認された。ただし、ワーキンググループが活動の柱であるとの位置づけにしては、補助が少ないのではないかとの指摘があった(仏:Benoit Ildefonse)。2007年の執行状況については、ワーキンググループ活動費のうち、MoMARへの補助が3000ドルの枠を超えて4000ドルとなっていることについて疑念が提出されたが、前年度の決定に基づいたとの反論があり、以後、このような例外を設けないことで決着した。2007年の執行状況としては人件費の高騰が深刻であるため、コーディネータをフルタイム雇用からハーフタイム雇用に切り替えるなどして対処しつつあることの報告があり、オフィスの機能に支障を来さないとの確認の上、承認された。

11:InterRidgeとしてのEthics, conservation, and access ridge samping(marine mining)への立場

processはWGにゆだねられても良いがpolicyについては必ずStCOMの権限であることを確認。

position paper for conflict interestsが必要との指摘。

※ 次回は10月の22〜24日にWHOIで開催。