2005年9月12日?16日かけてScripps Institute for OceanographyにおいてInterRidge及びRidge2000の後援を受けて、Third International Symposium on Hydrothermal Vent and Seep Biologyが開催された。同時にInterRidgeのMid-ocean ridge ecosystems WGも開催された。これらについて海洋研究開発機構の高井が報告する。

Third International Symposium on Hydrothermal Vent and Seep Biologyは、主に深海のHydrothermal vents, cold seepages, whale-born fallingsなどに群がる虫けらども(動物)を研究する研究者の集まりであるが、今回は虫けらを支える生物地球化学物質循環やさらに小さなムシ達(微生物)のセッションも充実していた。

個々の発表について、論評するにはもはや記憶が定かではないので、いろいろ感じたことについて雑感を述べてみたい。

このシンポジウムに限ったことではないが、熱水化学合成生物群集の発見から30年近く経って、ようやくこの分野は「発見」の科学から、「理解」の科学へ移行しようとしている。もはや、「新しい生物がいました」とか「新種の生物です」では生き残れない時代になってきたということである。アメリカの流行としては「西太平洋域における生物多様性と生物地理」と「モデルシステムにおける生物地球化学物質循環と生物群集構造」、「群集レベルでの生物遷移や生活環と環境変遷」が指摘できる。特に目に付いたのが、ペンシルバニア州立大学のChuck Fisherのグループで、今世界で最も精力的な研究を展開していると言える。Chuck FisherはRidge2000のチェア(2005 年9月まで)であり、InterRidgeのsteering committeeでもある。その利権(お金?)をフルに利用し、極めてアクティブな研究組織を創り上げている。日本の学生さんがポスドクするなら、Chuck Fisherの研究室がお薦めである。ヨーロッパは、IfremerとMPIの一部ががんばってはいるものの、やはりアメリカに比べて「ださい」感じがする。特にフランスグループは現在「Rimicaris」に注目して、大規模な研究を展開しようとしているが、いまいち研究のグランドデザインが見えてこない。特にアメリカに対抗してヨーロッパの掲げる戦略は「長期モニタリング」であるが、何のために大西洋中央海嶺に焦点を当てているのか、生物学者達の意識付けが浸透していない。また化学?微生物?生物の関わりが大事と言ってる割には、ヨーロッパ特有の縦割り意識が強く、うまく機能していない。これはアメリカにおいても言えることで、分野融合的な研究の難しさを表している。ドイツはNicole Dubilierが共生システムの研究を相変わらずがんばっているが、西太平洋のIfremeriaの共生では深みにはまった感がある。しかしながら、ドイツは微生物がしっかりしているので、フランスほど末期的な感はない。

さて問題の日本である。微生物については、高井グループがいるのでまあ心配しなくてもよろしい。虫けらについては、日本は共生を一つのテーマにして研究を進めているといっていいだろう。規模は小さいが、それなりにパンチが効いてて悪くないと思う。ただ、ここでも問題は、虫けら研究者はもっと、多分野との融合に積極的になるべきである。共生を扱いながら、微生物やその代謝について無知ではどうしようもない。また化学、地質に無知では話にならない。分野融合の第一歩は、まず他の分野に興味をもつこと(持てない人は引きこもって下さい)、そして自分の無知さを認識し、謙虚に教えを請うことである。少なくとも、熱水活動に関わる分野横断的な研究は、アーキアンパーク計画のおかげで日本は先を走っている。このアドバンテージを生かさない手はないと思うが、いかがなものか?特に若手の生物研究者に問いたい。日本の閉ざされたソサイエティーに縛られることなく、もっと自分のオリジナリティーを大事に作って、世界の中で活躍することを目標にしてもらいたい。全体的に批判的になってしまったが、まあ報告者の日々のストレスのせいと思って勘弁して頂こう。

会議中には、InterRidgeのMid-ocean ridge ecosystems WGも開催された。Congressディナーの直前に行われたために、全体的に「はやく酒のもうやー」というムードに包まれており、InterRidgeの紹介に続いて、懸案の「Code of conduct」について触れられたが、議論は先送りになってしまった。またこれまで議長をしてきたFrancoise GaillとKim Juniperが引退し、Nicole Dubulierが議長に就任するになった。さらに、第4回のシンポジウムを日本で行いたいという申し出が、JAMSTECの丸山正さんから行われたが、とりあえず拍手で賛同は得ていた。あとで私の方から「そういう話があるなら何故前もってJAMSTECの微生物グループやInterRidge Japanに相談しないのか?」という怒りを食らって、本人は恐縮していたが、未だに何の連絡もない。あとこの会はシンポジウム参加者にオープンな会であったが、参加者の中には「InterRidgeって何」という質問をする人も結構いた。国際的な宣伝も必要であろう。私の方からは、「実は今まさにこのScrippsで、IODPのSSPパネル会議が行われているのだが、多分誰もそんなことは知らないだろう。IODPでは熱水や冷湧水域の掘削がどんどんプロポーズされているので、今後InterRidgeとIODPのクロストークが必要である」という当たり障りないのないコメントをしたが、すぐさまChuck Fisherから「それがおまえのしごとだ」というつっこみがはいったので、それを私のしごととしていく所存である。

最後に、本シンポジウム及びWGの参加費はすべて自分たちの研究費から出しました。今後、一回ぐらいInterRidge Japanのほうから支援を受けたいと思います。