日本地球惑星科学連合メールニュース 9月号 No.282 2016/09/12
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡 穂高
この8月には,リオデジャネイロ五輪が開催され,日本勢の活躍もあり,開催国との時差12時間とあいまって,寝不足の方もおられたのではないでしょうか? 今回日本が手にしたメダルは,史上最多の41(金12,銀8,銅21)
で,メダルラッシュに沸きました.特に,アジア人には,これまで難しかったテニスやカヌーでもメダルに届いたことは,活躍できる裾野が広がってきたことを意味しており,好ましい現象と受け取られています.もっとも,五
輪はメダルだけがすべてではありません.この20年ほど日本では,「健康のためにスポーツを!!」というキャンペーンを通じて,国民の多くが様々なスポーツを楽しめるようになり,広く根付いているのは大きな財産です.
さて,今回のリオデジャネイロ五輪における日本人の活躍によって,スポーツ以外の分野でも「自分達もがんばろう!」と勇気づけられた人々も多かったと新聞報道にあります.その背景には (1)スポーツの国民的な広がり,
(2) 才能ある選手の育成,(3) 優秀なコーチによる指導のほかに,近年は,(4) 科学的分析センターの充実,(5) 合宿・遠征などへの資金の提供など支援体制が充実したことも大きいと報道されています.これらの要素は (1)研
究成果の一般社会への公表,(2) 充実した教育,(3) 適切な指導,(4) 高度な科学装置を用いたデータの取得・解析,(5) 海外も含めたフィールド調査・学会参加と読み替えれば,科学の研究にも,ほぼ当てはまります.
さて,日本政府は,2020年の東京五輪には「金メダル数3位」を目標に掲げています.この是非はともかく,上に書いた因子の背後にある重要なマクロ的要素について指摘したいと思います.実は,金メダルの数とGDP とは大変な相関があり,学問的にも研究されています(相関係数は0.88).そのような観点から日本のこれまでの実績を眺めると,GDP に比べてメダルが少なかったと言えます(髙橋洋一,現代ビジネス2016).
地球惑星科学の研究においては,衛星・観測船などのプラットフォーム,地震・火山・気象観測網など多額の経費がかかります.一方,少人数でできる研究も多く存在します.また,若手の雇用,将来性の高い分野への初期投
資も重要な課題となっています.全体としてみると,やはり政府の科学予算額や支出項目は,国全体の科学の発展に大きな役割を果たしています.
昨年,某科学雑誌が,多額の予算のみではノーベル賞は得られないと指摘しました.科学の発展には,個人の発想が根源であることは言うまでもありません.個人レベルでの発想を大切にしつつ.コミュニティ全体の活動を高
めるよう,JpGUはボトムアップによる科学的なコミュニティの活動を今後も支えるべく努力してきますので,よろしくお願いいたします.