日本地球惑星科学連合メールニュース 12月号 No.288  2016/12/12
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡穂高

本年も早いもので,最後の月となってしまいました.今年は,イギリスやアメリカの投票にまつわる話題が世界の注目を浴びました.JpGUの最高の決定機関は,正会員によって選挙で選ばれた代議員と団体会員(学協会)より構成される社員総会です.代議員選挙は隔年に実施され,次回は2017年となります.ぜひ,投票を通じて,JpGUの活動に参加していただければと考えます.
さて,日本の国政・地方選挙などでは,立候補者の名前を投票用紙に手書きで記入する場合が多いのですが,実は,これは世界の中では非常に特殊です.多くの国では,用紙に記載してある一覧から候補者などを選ぶこととなります.文字でなく,マークやロゴなどが書いてある場合もあります.日本で記名式となっているのは,すべての方が文字をきちんと書けることが前提であり,国民全体に教育が行き届いていることの証です.
日本の識字率は,江戸末期,武士は100%,庶民層の約半分,江戸の中心部に限定すれば約90%が読み書きができたと言われています.ほぼ同じ時期,識字率はイギリスの大都市でさえ25%程度,フランスではずっと低かったと推定されています.庶民の教育は,寺子屋制度により行なわれましたが,主体的な熱意で自然発生したもので,中世の寺院での教育に起源があるのではないかと言われています.
もともと我が国には,文字はありませんでした.では,日本人が難しい漢字を学習するようになった始まりはいつだったのでしょうか?奈良時代には,租庸調という徴税システムがあり,地方から都の政府への物資の発送などの際に荷札を付けたので,役人は簡単な漢字は書けました.それ以上の本格的な難しい概念を漢字で表現できるようになったのは,仏教の教典を学ぶようになってからです.聖武天皇は大仏で有名な奈良東大寺を中心とし,751年に地方に国分寺・国分尼寺を整備しました.これにより勉強する場が設けられました.そして,国分寺で学んだ僧侶が,さらに村で漢字を教えるなどして,日本中に広まっていったと,奈良文化財研究所の先生より伺いました.奈良大仏の建立は徴税などで民衆にも負担をかけた一方,日本の文化の基盤
の整備に貢献したともいえます.その後千年間,紆余曲折を経ながらも,日本人の識字率は上昇し,文化の発展にも寄与したようです.
連合大会は,地球惑星科学の最前線の成果を発表する場ですが,JpGUの四つの柱の一つに,一般の方々にも地球惑星科学の成果を広くお知らせする使命を担っています.一般公開プログラムへの参加者,学部生以下の方々の参加登録料は,無料となっておりますので,会員のお知り合いの方にも宣伝していただきたいと思います.
最後になりますが,来年は代議員の選挙の年となります.投票・開票の効率化のために,JpGUでの投票は「手書きの投票」ではございませんが,地球惑星科学のコミュニティを身近に接し,発展させていくためにも,投票をお願いできればと考える次第です.よいお年をお迎えください.