日本地球惑星科学連合メールニュース 4月号 No.292 2017410
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡穂高

新年度を迎え,研究室に新入生や新人が加わるなど,皆様,お忙しい毎日をお過ごしのことと思います.5月の連合大会の準備も着々と進行しています.おかげさまで,2017年大会の発表予定論文数は5,562(昨年4,515)とこの1年で20%以上も多くなりました.さらに,AGUからの投稿も約1,000と海外の発表者も大幅に増えそうで,今年のJpGU-AGU共同開催大会は盛会となることが期待されます.
さて,この数年間,4月中旬になると「今年も連合大会が無事開催できますように」と少し祈る気持ちになります.これは,2011年の東日本大震災(本震のマグニチュードはM9)が,4月に起きていたら連合大会の開催は無理だったと思われるからです.この大震災では,関東の地でも電力不足や社会の混乱などがあり,連合大会が本当に開催できるか皆心配しておりました.これに関連して次のような前例があります.2001年9月17日から,私達の専門分野がホストとなり「第7回国際古海洋学会議」が札幌で開催されました.ちょうどこの時「アメリカ同時多発テロ事件(9.11)」が発生しました.アメリカからの航空機が飛べずに,北米から参加できない方もおられました.JpGUに参加する学協会がホストとなり,国際学会を開催するケースが増えていますが,自然災害のみならず,社会混乱により当初予期せぬ事態に遭遇することが今後も起こると予想されます.
東日本大震災に関連して,朝日新聞デジタルに掲載された東北大の松澤先生の興味深い報告があるのでご紹介いたします.過去に観測された最大の地震は1960年のM9.5のチリ地震で,この時は長さ1,000kmの断層がずれました.マグニチュードは地震の規模を表すもので,Mが1増えると地震のエネルギーは約32倍大きくなります.理論上起こりうる最大地震はM10程度で,例えば,日本海溝から千島・カムチャツカ海溝までの3,000km全部が60mずれ動く事に相当するそうです.しかし,M11の地震は想定しなくてもよいようです.なぜなら,地球の半周に相当する断層長20,000kmというあり得ないくらいの最大値を仮定してもM11にはならないからです.では,M11程度のエネルギー放出はないので安心かというとそうでもありません.地球環境の大事件である中生代新生代の(KPg)境界では,小惑星が地球に衝突しました.その時に放出されたエネルギーに匹敵するのがM11以上で,陸では恐竜,海ではアンモナイトも含めて種のレベルで7割以上が絶滅してしまいました.
東日本大震災の惨憺たる大被害は,映像で皆様の脳裏に焼き付いていることと思います.この損害額は16兆円強と推定されました.日本は長期間にわたりデフレーションに見舞われていますが,その原因として,需給ギャップ(需要よりも供給力が多い),すなわち,企業の設備や人員が過剰で,物余りの状態が挙げられています.このギャップは,大震災の損害額にほぼ同じオーダーほど巨額で,なかなか解消できない一端がわかります.なお,源泉徴収されているので知らない方が多いのですが,東日本大震災の復興を支えるために,所得税には復興特別所得税が加算されています.2013年より2037年まで25年間支払うことになっているので,大震災の時に40歳前後だった人が65歳で退職するまで支払う総額は,数10~50万円程度と計算されます.
話を元に戻すと,今年の連合大会は,JpGU-AGUの共同開催となり,多数の参加者が期待されます.大学関係者におかれましては,学部の学生さんを積極的にお誘い下さい.学部学生・高校生の参加料は無料です.広い分野の地球惑星科学に接するとともに,展示ブースでは,各大学・研究所・プログラムの紹介,大学院の募集情報など,進学・研究に関係した情報収集ができます.今年は展示ブースの面積も広くなっております.ぜひとも連合大会を活用していただきたいと考えております.