日本地球惑星科学連合メールニュース 8月号 No.299 2017/8/10
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡穂高

梅雨が明けて,真夏となりました.熱中症などにも十分注意を払いつつ,夏のフィールド研究をしていただければと思います.今年も7月に各地で豪雨災害がありました.被災された方々には心からお見舞い申し上げます.
近年,研究調査でアジアの大河を訪れましたが,そこで見た洪水は,日本とは大いに異なっていたので,ここでご紹介したいと思います.アジアモンスーンの影響が顕著な国々では,雨期と乾期で気象が全く異なります.雨期最盛期にはほぼ毎日雨が降ります.ガンジス,ブラマプトラ,メコン,長江などの巨大河川の源は何千kmも離れたヒマラヤ山脈にあります.上流は急流ですが,下流域では非常に平らで,約百km流れても, 十数mしか勾配がないので,水は何十日間もかけてゆっくりと流れてきます.これに対し,日本の河川は,富山県の常願寺川(3000m級の立山より河口まで数十km しかない世界屈指の急勾配河川)で代表されるようにとても急流です.山間部に豪雨が降ると,一気に濁流が流れ下り,被害をもたらします.
アジアの大河では,水位は1日あたり数cm程度というスピードで上昇し,集水域が広いので,雨期最盛期には乾期と比べて数m~十数mも高くまで増水します.そこで,田んぼや村々の細い道などは水没し,巨大な池のような景観となります.土を盛り上げた上に建設された幹線道路や家は通常水没しませんが,何十年に一度の大洪水の時には,何日間か,屋根の上で暮らす村の人もいるそうです.
このような話をすると,人々はさぞかし雨期を嫌っていると思われるかもしれませんが,そうではありません.乾季には飲料水などの確保に支障をきたすことがありますが,雨期には雨水が十分にあります.河川と繋がった広大な池には魚も泳いでいるので,家の前で魚釣りができます.道路に散らばっていたゴミも全て流されて綺麗になります.懸濁した水により,1年間に3回も米の収穫があるほど栄養が供給され,施肥をする必要はありません.実際,バングラディシュは九州の4倍ほどの面積に1億6千万人以上が住んでいますが,年により多少変動はありますが,コメはほぼ自給できているそうです.アジアモンスーンによる洪水は,米を通じて多くの人口を支えているのです.
アジアの地域の人は国民の平均年齢が若く,生産年齢人口の全人口に占める割合が大きいのが特徴です.経済的な生産活動ではこの年齢層が重要で,生産年齢人口が多いと経済発展などに有利に働くので,「人口ボーナス」と呼ばれています.日本も1970年頃に極大を迎え,これは当時の経済発展の大きな要因となりました.日本は「2020年東京オリンピック」の後,全人口,生産年齢人口がともに急速に減少していきますが,インドなどは2050年を超えても経済発展が継続すると予想されています.アジアの国々は経済発展に伴い,教育,研究環境も改善され,科学的な貢献も大きくなると期待されます.JpGUは,アジアの研究者とのジョイントセッションなどを通じて,アジア地域の科学の発展にも寄与したいと願い,現在その方法などを検討しています.