日本地球惑星科学連合メールニュース 9月号 No.300 2017/9/11
┌┐
└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡 穂高

日本地球惑星科学連合メールニュースは, 記念すべき第300号となりました.今後とも歴史を積み重ねながら,皆様と共に発展していきたいと考えますので,よろしくお願いいたします.
今年の夏の話題の一つは,神戸港で発見された毒を持つ「ヒアリ」でしょうか?このアリは南米原産の赤茶色の小型(体長は2.5~6mm)のアリで,強力な毒を持つとされます.一番の特徴はその繁殖力の強さです.現在のところ,少数の事例を除いて「ヒアリ」は港のコンテナ保管場所から見つかっているので,日本への侵入段階にあると言えます.そもそも「アリ」は,ハチ目・スズメバチ上科・アリ科の昆虫で,恐竜が超温暖な地球を楽しんでいた約1億2千万年に,スズメバチの祖先より分岐したと推定されています.スズメバチとミツバチとの遺伝的距離より,スズメバチとアリとの距離の方が近いというのは驚きです.この「ヒアリ」は,世界の侵略的外来種ワースト100選定種に選ばれており,特定外来生物にも指定されています.日本における
他の危険外来種としては,歯が鋭い巨大なカメである北アメリカ原産の「ワニガメ」があります.これはペットとして飼っていたものを飼い主が自然に戻したことに起因します.オーストラリア原産の毒グモである「セアカゴケグモ」も素人には認識しにくいので,注意してください.
このように書くと,海外から強力な繁殖力を持った生物が日本に侵入し,これは被害の輸入超過と受け取る方もおられるかもしれません.しかしながら逆に,日本原産の動植物は外国に迷惑をかけていないのか?という疑問も湧きます.実は,私達に馴染みの深い「ワカメ」は,世界の侵略的外来種ワースト100(IUCN, 2000) に含まれ,商船のバラスト水に混じって海外に運搬され,現地で迷惑をかけているようです.同様に,植物の「葛」もワースト100に入っており, 地下茎が強いので駆除してもすぐに再生するというたくましさが脅威となっています.なお,葛切り・葛餅の原料は「葛」ですが,関東で一般的な「くずもち(久寿餅)」は小麦粉を発酵させたものから作られているので,原料は別物です.このように現代では,人為的に持ち込む生物により,それぞれ地域の生態系や経済に重大な影響が出ていますが,これは,人間の移動が活発になり,交流が深まっていることが背景にあります.
連合大会も発展し,今年は千人以上の海外からの参加者がありました.発表言語については昨年11月の巻頭言でもご紹介したように,「EE」,「EJ」,「JJ」(http://www.jpgu.org/meeting_2018/rule/gl_conv.php#gl_co_12)
の3種類となっています.これに対する皆様のコメントは,多岐にわたり,JpGUも対応に苦慮しています:「もっとEEを多くして海外への情報発信を強化すべきである」,「日本語での正確な科学的議論を重視すべきだ」,「EJにおいて表記が英語となっておらず,外国の参加者に不評であった」,「共同開催の場合には,EJはEEに合流したらどうか」,「参加学会の秋季大会は日本語なので,春の連合大会は学生の教育的観点からも英語で発表する方が良いのではないか」.科学研究費補助金(研究成果公開促進費)においても,海外への情報発信強化が強力に打ち出されているように,研究成果の英語での発表は促進されています.今後,議論を重ね,次回のJpGU-AGU共同開催までには,もう少し統一感のある発表形態で合意が形成できればと考えております.