日本地球惑星科学連合メールニュース 2月号 No.305 2018/02/13
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡穂高

今年は例年になく寒い冬です.インフルエンザもA型とB型の両方が流行っているとのことで,気をつけていただければと思います.連合大会の投稿受付は,2月19日(月)17時までです.よろしくお願いいたします.
日本学術会議に学会として登録されるには,「年会の開催」と「学会誌の発行」が必須条件です.年末のメールでもお知らせしましたように,JpGUと参加学協会が共同出版するオープンアクセス雑誌「Progress in Earth and Planetary Science (PEPS)」が,クラリベイト・アナリティクス(旧トムソン・ロイター)社のWeb of Scienceによる引用文献データベースに収録されるとともに,2018年6月にPEPSの最初のImpact Factor(IF)が発表される予定です.最初の数字は目標としていた「2」~「3」の真ん中になりそうです.これまでPEPSを支えてくださった多くの著者,査読者,読者,学協会の皆さまのお力添えに感謝する次第です.
IFは,「文献引用影響率」と訳され,ある雑誌に掲載された「平均的な論文」が,その対象期間中にどれだけ頻繁に引用されたのかを示す尺度です.たとえば,(2017年のIF)=(2017年の総引用回数)/(2015年+2016年に出版した論文総数)となります.この尺度は,アメリカ人のEugene Garfield教授により1955年に発表され,すでに半世紀以上が経過しています.本人が述べているように,その長所は「学術雑誌」の評価指標として便利なこと,自分の書いた論文がより多くの人の目に触れて欲しいと思って投稿先を選ぶ際に役立つことです.一方,「この論文のIFを知りたい」,「私のIFはいくつか」といった問いは,典型的なIFへの無理解を示しています.さらに,研究者の投稿した論文掲載誌のIFを合計して業績評価とするのも無意味です.地球惑星科学の分野の論文は長期間引用されるので,過去5年分の論文から計算された「5-Year IF」の方が通常のIFより高い雑誌が, 私達の分野には結構あります.
さて,皆様は年間どのくらい英語の論文を読まれるでしょうか?毎日1本という勉強家,平均すると毎月1つしかきちんと読めない多忙な研究者もおられるかもしれません.テネシー大学の調査によると,英語が母国語のアメリカ人でも年間250論文位しか読めないようです. まして,英語が外国語である普通の日本人にとっては,論文を読むのに相当の時間が必要です.本来はオリジナル論文を網羅的に読むのが理想的かもしれませんが,広い分野の中での研究項目の位置づけや,少し離れた分野の将来の課題などに関する情報を効率的に得るには,質の高い「総論=Review article」が有用です.そのため,PEPSでは「Review article」の出版にも重点を置いています.
「なぜ,自分たちのコミュニティで有力雑誌を持つ必要があるのか?」とたびたび質問されますが,その答えとなる良い実例が物理学の分野にあります.理論物理学者の湯川秀樹博士によるノーベル賞の対象となった原稿は,当初有力な商業誌に投稿されましたが,「却下=Reject」されたそうです.その分野の核心をついた論文は,京都大学の紀要と日本の物理学会の学術誌に掲載されました.時代を超えたアイデアを掲載できたことに,これらの雑誌は今でも誇りを感じているそうです.
JpGUにおけるジャーナル出版の究極の目標は,「日本の地球惑星科学コミュニティからの国際情報発信」です.これまでもAGU, EGU, AOGSなどのJpGUブースでJpGU参加学会の国際誌の広報活動を行なってきており,今後はより系統的にこれを推進します.
日本列島は地質学的に世界で最も活動的な縁辺域に位置し,ユーラシア大陸と太平洋の影響を受けて気候や環境も独特です.日本のコミュニティは高い分析技術に裏打ちされた世界のトップクラスの研究レベルにあります.これらの先進的な分野で,「革新的なアイデア」を掲載できる雑誌を皆様とともに作っていきたいと考えております.皆様の優れた研究成果をPEPSやJpGU参加学会の雑誌にご投稿いただきたいと思います.