日本地球惑星科学連合メールニュース 8月号 No.314 2018/08/10
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡穂高

今年は寒い冬で始まりましたが,真夏は例年より早く到来,そして暑さが続いています.今年も7月に各地で豪雨災害があり,平成となって以来最悪となりました.被災された方々には心からお見舞い申し上げます.
各地で猛暑となっていますが,近年,海でも温暖化が進行しています.サンゴの「白化」は,テレビなどでもたびたび紹介されているので,皆様もご存知のことと思います.もともと,造礁サンゴは,温暖な海に生息し,寒冷な海では生きていくことができません.骨格の成長を基にすると25~28℃の海が,サンゴにとっては一番快適なのではないでしょうか.健全なサンゴは体内に単細胞藻類を共生させ,外から見ると多くは褐色に見えます.しかし高海水温(30~33℃)や強い紫外線にさらされると,サンゴと共生藻との共生関係が壊れて,共生藻がサンゴから抜け出してしまいます.すると,サンゴの軟体部はもともと無色透明なので,炭酸カルシウムからなる骨格が透けて見え,鮮やかな白色を呈し,サンゴの白化と呼ばれる現象となります.
白化したサンゴは,共生藻からエネルギー源となる有機物を得られなくなり,この状態が長期間継続すると死んでしまいます.世界的な大規模な白化は,エルニーニョによる高水温が原因で1997~1998年に起こりました.沖縄周辺では2001年,2007年,2016年夏にも白化が起こりました.たぶん,今年の猛暑による私達の「暑くてたまらない!!」という気分は,サンゴが水中で体験したものと似ているかもしれません.もっとも,今年の沖縄地方は,大型台風がたびたび通過し,水温が低い深い所の水と表層水が,かき混ぜられているので,海水温は特別上昇せず,サンゴの白化は起きていません.
高温は他の生物にも影響を与えるのでしょうか?夏の風物詩である蚊も,「ネッタイシマカ」を使った実験結果によると,飛翔は10~35℃で観察され27℃の時より少し低めの15℃の方が長く飛んだそうです.意外に高温に弱く近頃の猛暑は蚊が好む温度と言えないのかもしれません.ちなみに,人間は恒温動物なので,自動的に一定の体温を保つように設計されています.冬になると初夏より20%ほど発熱量を上げています.夏の方が省エネかというとそうでもありません,というのは,体温上昇を防ぐために汗をかきますが,汗1リットルで消耗するエネルギ-は400Cal以上と非常に大きいために,夏バテなどに影響します.沖縄地方で伝統的に豚の脂身が食されてきたものも厳しい暑さのためと聞いたことがあります.
今年は,岐阜県では5年ぶりに40℃を超えるなど,酷暑となっています.2020年夏には東京でオリンピックが開催され,その競技時間も変更になったことは,皆様もご存知のとおりです.2020年5月の連合大会はJpGU-AGU共同開催(2017年に引き続き第2回)となり,すでにプログラム委員長も決まって準備が始まっています.学会のもう一つの重要事業である出版事業では,JpGUとJpGU参加学協会が共同出版する“Progress in Earth and Planetary Science”がクラリべイト・ アナリティクスによる最初のインパクト・ファクター(IF)を取得しましたが,通常のIFの他に,過去5年間に出版された論文の引用を調べるIF(5年IF)もあります.この値が最初に付与されるのも2020年6月です.オリンピックの年に向けて,今後も皆様の意見を反映させながら,連合の活動を広く深く展開できたらと思います.さらなるご支援をお願いいたします.