日本地球惑星科学連合メールニュース 10月号 No.316 2018/10/10
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡穂高
9月から10月にかけては,秋の年会開催シーズンです.春の連合大会に対し,秋は各々の参加学会において専門性の高く深い議論が展開されていることと思います.
2018年4月にEGU(European Geoscience Union)の年会が開催されました.そのおり,JpGU,EGU,AGU,AOGS などでビジネス会議がありました.EGUの会長から「大規模な年会の開催に伴い,会場の運営や参加者の移動・宿泊などにより環境にCO2が放出されることになるが, これを削減すべく多大な努力を払っている.今年は『カーボンオフセット』の機会も提供している.」との発言がありました.『カーボンオフセット』とは,排出量が減るよう削減努力を行うが,どうしても排出される温室効果ガスについて,地球上の別の場所でそれを削減することにより,自身の温室効果ガス排出の影響を埋め合わせるという考え方で,イギリスを始めとした欧州などで活発に利用されています.さらに,飛行機より電車の方がエネルギー効率がよいということで,「スイスの国鉄が EGU年会にあわせて割引切符を発売した」とのトピックスの紹介もありました.もっとも,北米からの研究者は,飛行機に乗らずにEGUの開催都市ウィーンには到達できないので,少し戸惑いがありました.
連合大会が開催される幕張メッセも,環境に配慮した積極的な取り組みを行ってきています.省エネルギー対策として消費電力の少ないLED照明などの高効率照明器具の導入,自動水栓の導入,高度処理した中水を使用した節水型トイレ洗浄システムの順次導入,空調機の送風量の自動制御,空調用熱源に未利用熱の活用,カーペットにカーボンオフセット商品を採用,など環境に優しい国際会議の運営を今後とも熱心に促進していくつもりです.
さて,近年LC航空会社を利用すると,事前割引の場合,5千円程度で東京―北海道間を移動できます.この値段で燃料代も払っているということは,エネルギー効率も決して低くはないとの印象を受けます.最新のボーイング787はエネルギー効率がとても改善され,1人を運搬するのに必要な燃費(ジェット燃料は特殊な「灯油」)は,条件にもよりますが約37-49km/L/人と推定されます.これは,ハイブリッド車で乗員1~2人のドライブとほぼ同じです(約30km/L(市中走行の実燃費で約20km/L)).もちろん,4人乗りになれば,効率は倍以上に伸びます.サンフランシスコは AGUの秋季大会が開催されてきた都市ですが,東京から約8,300km 離れています.仮に太平洋に道路があって自動車で行くとなると,途中でガソリンの給油が必要です.ガソリンスタンドがないので,タンクローリーで運搬し,給油せねばなりません.このロスも含めると,ハイブリッド車の総合的な燃費は,4人乗りとしても約30km/L/人と,飛行機とほぼ同じ位まで落ちてしまいます. エコな乗り物だと評判の高い列車(ディーゼルカー)の場合には,エネルギー効率が一桁上回り,約300km/L/人となります.
次に,国内の長距離輸送(例えば,札幌―幕張メッセ間)を考えてみましょう.燃費だけを比べると,電車がベストです.「効率良く高速移動(1人あたりの燃費x速度)」という速度も考慮したパラメータで比べましょう.この場合,飛行機,電車がほぼ同じで1位,かなり離れて3位がハイブリッド車利用となります.主に電車利用の場合,約8時間かかりますが,飛行機を中心とした場合には3時間強と「5時間程度」の余裕が生じます.これを有意義に研究,教育,マネジメントに使えば,「新たな価値」を創造できます.飛行機は空中を移動するので,エネルギー効率が悪いと誤解されているところもありますが,実際には「効率良い速さ」という特徴を生かした移動手段と言えます.
来年の日本地球惑星科学連合2019年大会のセッション提案受付締切は10月12日(金)17:00 です.魅了的なセッションをお待ちしています.ご提案よろしくお願いいたします.