日本地球惑星科学連合メールニュース 11月号 No.317 2018/11/12
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡穂高
日本地球惑星科学連合2019年大会へのセッションご提案,どうもありがとうございました.10月23日のプログラム委員会(大会プログラム委員長,堀和明先生)で244のセッションが採択されました(昨年は236).
2018年もあと二ケ月を残すのみとなりました.年初に立てた計画も予定どおりに進まず,遅れてしまった方も結構おられるかもしれません.でも,これは驚くべきことではありません.しばしば「意思が弱いからだ」と責められやすいですが,人間が産まれながらに持っている「楽観バイアス」という「人間の特性」に原因があるようです.ノーベル経済学賞を受賞した認知心理学者ダニエル・カーネマンは,これを「計画錯誤」と表現しました.「何かに取り組む際に要する労力や時間を過小評価し,遂行過程を過大評価してしまう心理」が人間に備わっているのだそうです.
「いつごろ卒業論文執筆が完了するのか?」と,大学4年生に最短‐最長の日数を予想させたところ27‐46日間と回答しました.実際には,完成まで平均56日を要しました.しかも,彼ら自身の最長予想期間より早く完成できた学生は半分以下だったそうです.人間の予想がいかに楽観的なのかがわかります.ノーベル賞学者が執筆チームを作り,教科書を書くことになりました.執筆を多少経験した「2章が終了した段階」で,執筆物全員にすべてを完成するのに要する時間を予想させたら1.5-2.5年間(平均は2年間)との回答を得ました.しかし,実際には,予想の4倍である8年を要しました.本件は,ノーベル賞を受賞した認知心理学者のグループでも,このような状況に陥ってしまうくらい,「人間の特性」から逃れることは難しいということを示しています.
とはいえ,年初の予定をすべて順調に熟(こな)した方もおられるでしょう.その方々は,「強靭な意思力」,「時間管理」,「リスク管理」など人並み外れた能力をお持ちなのだと思います.学生さんの論文の執筆の場合には,未熟である部分も相まって,理想通りにいかないのも仕方がないかもしれません.
さて,知っているようで知らない質問をここでしましょう.20世紀に最も論文を書いた方はどなたでしょうか?欧米の世界で通常言われているのは,「ポール・エルデシュ」というハンガリー国出身の数学者です.数学のために生涯を生きた方で,約1,500編の論文を発表しました. さまざまな方と議論しながら研究を進めるのが彼の研究スタイルで, 500余人と共同研究を行ないました.もちろん,形だけの共著でなく,溢れ出るアイデアで若い数学者に多大な影響を与えました.さらに,人類史上最も論文を書いた方はどなたでしょうか?それは,オイラーの定理で有名な18世紀に生きた数学者レオンハルト・オイラーとされています.スイスで生まれ,ロシアとドイツで活躍しましたが,30歳を超えたあたりから視力が衰え,60歳すぎには完全に失明しましたが,76歳で亡くなるまで精力的な研究生活を続けました.
最後になりますが,連合事務局は,大会に直接関係すること(3‐6月)以外の事項でも忙しく働いています.プログラム関係では,セッション募集・決定(9・10月),編成(11月),コマ割り公開(12月), アブストラクト投稿開始(1月),セッション編成(2月),高校生の発表募集・編集(1‐4月)のサポートを行います.理事会,学協会長会議,顕彰をはじめとする各種委員会,内閣府,日本学術会議その他に関わる案件の事務処理や連絡も行っています.みなさまのご協力が不可欠です.今後ともよろしくお願いいたします.