日本地球惑星科学連合メールニュース 1月号 No.319 2019/1/10
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡穂高

 新年おめでとうございます.本年もよろしくお願いいたします.
今年のJpGUの活動の「暦」として重要日程をお知らせいたします.日本地球惑星科学連合2019年大会は,例年より1週間遅れて5月26日~30日(5日間)に,幕張メッセ国際会議場を中心として開催されます. 投稿は2月19日17時(早期締切2月4日23時59分)まで,参加早期登録は5月8日23時59分まで受付となります.ご参加をお待ちしております.
昨年1月の巻頭言に引き続き「時」を話題としましょう.機械式時計は日当たり数?数十秒,クオーツ時計は月当たり数?数十秒の精度があります.電波時計は高精度の原子時計を基にした電波塔より発信される時情報を受信しますが,この精度は30万年に1秒以内です.時間の基準は,1952年に「1秒の長さは1平均太陽日の86,400(60x60x24)分の1」,1956年に「1秒の長さは1太陽年の31,556,925.9747分の1」と決められました.原子時計は革新的高精度を達成したので,これを用いて地球の自転を測定すると,自転軸の方向に3?5mmのブレがあることがわかりました.地軸は特定の方向に固定されているのでなく,地軸自体が円を描く「歳差運動」をしていること,潮の満ち引きなどで自転速度が遅くなっていることもわかってきました.そこで現在では「1秒の長さはセシウム133原子が基底状態で9,192,631,770回振動する時間」となっています.現在は,さらに3桁高い精度が実現可能な「光格子時計」が開発中です.アインシュタインは「重力の小さい方が,時間の進み方が速い」と主張していました.2011年に東京大学(文京区)と情報通信研究機構(小金井市)との間で時間差を用いた高度差を測定する実験が行われ,「時空の歪み」の存在が検証されつつあります.
人体と高精度時間といった観点では,陸上短距離走における「スタートの公正さ」は最重要事項です.現在は中学校の大会でも「位置について!」ではなく,国際基準の「On your marks!」と言って,静止を確認し,スタートピストルが撃たれます.スタートのブロックにはセンサーが埋め込まれていて,以前はフライングは2回で失格でしたが,現在は1回で失格と厳しくなっています.ピストル音から遡って千分の100秒(0.1秒)未満に体重の変化などが検知されるとフライングとなります.この根拠は,「人間が外敵刺激を感知し,大脳が判断し,身体反応に要する時間は, 最低でも千分の140秒必要」という古典的な生理学の論文が根拠となっていました.しかし,検証実験の結果「千分の85秒」でも身体反応することがわかってきたので 0.1秒ルールが再検討されているそうです.練習を繰り返すと情報が大脳まで到達しなくとも,小脳が反応して時間短縮できるそうです.
今回は究極の時についてお話しましたが,どの人にも平等に1年間という時間がやってきます.日本人の「労働生産性=GDP/労働量」はアメリカの68%しかありません.もちろん,この根拠となる式に課題があるとの指摘もありますが,長時間労働,有給休暇の消化率もOECD参加30ケ国の最低,多すぎる会議など問題も結構あります.海外の著名な研究者には,研究成果を挙げながら,一方でゆったりした時間を楽しんでおられる方も結構います.皆様が「2019年はとても良い年」だったと,後から思い出されるような年になることを祈っております.