日本地球惑星科学連合メールニュース 2月号 No.320 2019/2/12
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡穂高

 1年間で最も寒い期間となりました.今年はインフルエンザが流行っており,みなさまも毎日気をつけてお過ごしのことと思います.日本地球惑星科学連合大会のアブストラクト締切は2月19日17時です. 積極的なご投稿をお待ちしております.
今月は,年末に少し話題になっていたクジラについて紹介しましょう.通常,クジラとイルカには生物分類上の明確の境界はなく,成体で比較的小さいもの(4m程度以下)をイルカと呼んでいるそうです.クジラは海で生活しますが,魚類から進化したのでなく,分子系統学的にはクジラ類はカバ科と親戚だとされます.ご先祖様は肉食性哺乳類パキケトゥスで,約5300万年前(始新世初頭)に,今のパキスタンの海岸あたりから海で泳ぎ始めたようです.その頃には魚竜なども絶滅していなくなっていたので,自由に生活範囲を広げられたのでしょう.
鯨類は,ヒゲクジラ類とハクジラ類より構成されていますが,その起源は約3400万年前(漸新世頃)とされます.ちょうどその頃,南極大陸がオーストラリア大陸と分離して,南極周極海流(南極大陸の周りを東向きに流れる海流)も確立されつつあり,極域の寒冷化も進行し,冷たい深層水などの湧昇を誘発して,一次(基礎)生産も高まりました.漸新世には陸域でも寒冷化と乾燥化が進行し,草地の面積も増大しました.イネ科の植物などを手にとるとガサガサした感じがしますが,その感じをもたらす物質は,細胞組織内に存在する非結晶性の含水珪酸体(SiO2.nH2O)です. これは風化され易いので,海洋にケイ酸を大量に供給しました.シリカの殻をもつ珪藻もこの時期,種数を増大させ,これを食べるオキアミも増え,最終的にクジラの進化を促進する環境を提供したとの説があります.
イルカは体重に占める脳の割合(脳化指数)がヒトに次いで大きいので,高い知性の潜在性が指摘されてきました.たぶん,周囲とのコミュニケーション処理のために脳が発達したのだと言われています.しかし,脳サイズは大きいものの,ニューロン自体の密度は比較的高くないので,もし密度がヒト位に高くなると酸素消費量が増大し,潜水時間は短くなってしまうと推定されています.
現在の日本人は鯨肉をほとんど食べませんし(年間わずか30g), その需要も減っています.しかし,昭和40年代までは鯨の竜田揚げは学校給食のエースでした.当時の児童たちにとっては,貴重なタンパク源でした.日本の大規模な捕鯨は,第二次世界大戦後に始まりました.日本は焼け野原となり食べ物もなく,米海軍のタンカーを改造して捕鯨船を作り,南極海に向かいました.当時の先生は,給食時「すべて残さず,きちんと食べなさい!」と児童に教育しました.最近は,強要はよくない,などの指摘もあります.しかし,当時の先生は,戦中・戦後の飢餓の体験を基に「生き抜くためにはどうすべきか」という課題を,給食を通じて児童に伝えたのだと思います.小学校から「ゆとり教育」を本格的に受けた世代(1989年から1995年生まれ)が大学院入学から博士卒業の段階に入ってきました.偏差値重視の教育を廃止してゆとりのある教育に転換し,生きる力を育成しようという趣旨の良いところを生かして,今年博士を取得される方々に研究の発展を期待する次第です.ぜひ,2019年の日本地球惑星科学連合大会で研究成果を発表していただければと思います.