日本地球惑星科学連合メールニュース 4月号 No.322 2019/4/11
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡穂高

 今年も新学期となりました.日本地球惑星科学連合2019年大会までにはまだ時間がありますが,今回は,口頭発表に生かしていただくために,「声」の効果についてご紹介します.16-75歳の男女千人の日本人に調査したところ,「自分の声を嫌い」と回答する人が80% もいました.しかし,連合大会ではポスター発表より口頭発表を希望する方が多いので,それを叶えるよう努力して,口頭/ポスターの発表比率は1:1程度となっています.これに対しAGU, EGUでの比率は,それぞれ約1:3,1:2です.
「声を出す」には,1)肺から息を送る,2)声帯を振動させる,3)体で共鳴させる,4)発音する,がすべて上手にできる必要があります.「空気を溜めているのは肺」ですが,肺には筋肉がないので「横隔膜の筋肉を上下に動かして」吐息(といき)の量とスピードをコントロールします.声帯は喉仏のあたりにある2本の筋でできていて,通常は開いています.しかし,声帯が喉の管を閉じ,息の圧力で空気を押し出すと,声帯が震えて音が出ますが,発音はできません.声帯の振動自体は微弱ですが,声帯の上の空洞,口腔,鼻腔に響かせることで大きな音にできます.最後に,体にも響かせた音を口の中で発音すると言葉になります.口の動きだけでなく,顎や鼻,ほおなどの表情筋を動かすことで発音できます.人の話を聞く時には,話されている内容を理解するため,声は耳から大脳の聴覚野を通過して,言葉を理解する大脳新皮質の言語野というところに達し,「内容」が理性的に理解されます.
これと併行して「声という音そのもの」も同時に大脳のより深い所にある旧皮質を刺激し,快・不快,好き・嫌いといった本能的な感情を起こさせます.声による伝達は理性と感情の2つを伴うので,説得力を伴う声の質はとても重要です.人間は生活の中で,周囲の音にあわせ「自分の発声する声」を調節するので,「声」は社会で作られるといっても過言でありません.
一般に身長が高いと声帯や声を共鳴させる声道の長さが長くなるので低い音となります.男性も女性も思春期に,それぞれ声帯は7mm,3mm長くなり,1オクターブ,音程で3音低い声となります.声が低い人は体が大きいので,声を聞いた人は本能的に防御体制にはいります. 声が高いと相手は小さい(=弱い)と判断し「守ってあげよう」と感じるのは,人類進化の初期以来のものです.犬も大きい方が声は低くなります.実は日本の女性の声の高さは330Hz前後(本来230Hz)で,声帯の長さに見合わない高音となり,先進国の中で一番高く,「弱く小さい」女性像を社会が求めていることが背景との指摘があります.これにつられて,実は,近年日本人の男性の声も本来よりも高い周波数となっています.
声を大事にした最初の大統領はフランクリン・D・ルーズベルトで, どっしりした温かい声で話しました.ケネディは話す,時に顔を動かさず安定した音声を響かせました.チャーチルは安定感のある低めの声で国民に安心感を抱かせました.声は単一周波数でなく,さまざまな周波数が混じっています.「暗い声」は高い周波数が少なくなっています.これを解消するには,眉を引き上げ,少し目を見開くと高い周波数が増幅し,明るい感じとなります.
鏡の前での発声し,録音して「自分の本当の声」を知ることが第一段階です.次に,自分にあった声,その場に適した声を探求していただければと思います.今回の連合大会では,内容のみならず「説得力のある良い声」の口頭発表が増えてほしいと祈念する次第です.