日本地球惑星科学連合メールニュース 10月号 No.329 2019/10/11
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡穂高

 連合の最高議決機関は社員総会で,社員は代議員より構成されますので,代議員はとても重要です.10月に入りその選挙の投票が始まりましたので,投票よろしくお願いいたします(https://www.jpgu-member.org/jpgu/ja/).
今回は,昨今話題になっている「AI(人工知能)」を取り上げましょう.2018年に亡くなった宇宙物理学者,ホーキング博士は「AIをこのペースで開発し続けると,生物的進化の遅い人間は,すぐに追い越されるだろう」と警鐘を鳴らしていました.「AIの2045年問題」というのがあり,この年,AIが人間の能力を超えるのではないかと予想されています.
コンピューターサイエンスの歴史に残る「世紀の対決」は,1997年に行われた,チェスの世界王者カスパロフとIBMのスーパーコンピューター「Deep Blue」の対戦でした.「ある駒を犠牲にする洗練された一手」は,人間の敗北をもたらしました.「人間の知性がコンピューターに打ち負かされた」と広く言われましたが,実際には,コンピュータープログラムの「バグ」が原因でした.王者は「こんなはずはない!!」と考えすぎたようです.その後の精密解析により,これは本来負けない戦いだったということがわかりました.どうも人間には,「物事を必要以上に考えすぎる」癖があるようです.
「AI」のビックバンが2012年に起こりました.人間の脳は5~6層のネットワーク層が重なり,処理情報を次々に別層に送ることで,高度な学習・思考ができるそうで,これは「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれています.これを応用した最初の囲碁ソフトが13層をもつ「アルファ碁」で,韓国の囲碁チャンピオンに勝ちました.14層以上にしなかった理由は,「暴走」の危惧のためでした.現在では,2000層のネットワーク層を持つ人工知能が開発されています.
「AI」時代に必要とされる人材とは,「AI」が苦手なことを柔軟にこなせる人,すなわち,仮説を立て,物事を突き詰め,証拠や反証を解析していく「シャーロック・ホームズ」のような人物とされます.実際,創造,共感,判断などは人間が得意である一方,反復,予測などは「AI」が得意です.両者は具現化,相互作用,説明,訓練などで協力できるとされ,「AI」時代になっても,研究者,弁護士,プロデューサー,デザイナー,医師,教師,宗教家などの職業は無くならないと言われています.
「AI」に対し,人間の脳は進歩しているのでしょうか? 実は少し気がかりなデータがあります.脳容量は,人類初期のアウストラロピテクス属では385cc,道具を発明したホモ・ハビリスで600cc,火を使ったホモ・エレクトスで900cc,3万年前のホモ・サピエンスで1500ccまで順調に増加しました.ところが,現代人の脳容量は1350ccと,10%も減少しています. これは「退化」で,記憶の一部をコンピューター等外部に委託するようになったから,人が増え生命の危険が少なくなったから,など原因が指摘されていますが,特定されていません.逆に,縮小化は「進化による効率化」との説もあります.脳容量はアインシュタイン博士では,むしろ小さく,絶滅してしまったネアンデルタール人では1550ccだったなど,脳容量と知能との関係は薄いという意見もあります.
生物は神様(あるいは自然)が何億年もかけてつくったもので,未知の能力が潜んでいるかもしれません.頭脳は使うと発達することが知られています.「AI」の時代を生き抜けるよう,「サピエンス(知恵のある)」才能を駆使し,来年のJpGU-AGU Joint Meetingで素晴らしい発表をしていただければと期待し,お願いする次第です.
なお,JpGU-AGU Joint Meeting2020のAbstract投稿開始は,2020年1月7日からです.