日本地球惑星科学連合メールニュース 11月号 No.330 2019/11/11
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└■ 1.巻頭言
公益社団法人日本地球惑星科学連合 会長 川幡穂高

 連合の代議員選挙,投票ありがとうございました.来年の社員総会に向けて,セクションプレジデント,理事候補者選挙が引き続き行われます.皆様が提案して下さったセッションは,JpGU-AGU共同開催が魅力的になるよう,現在,プログラム委員会の方で,編成が行われています.
10月の恒例となったノーベル賞ですが,今年も化学の分野で,吉野彰先生が受賞されるとのニュースに沸きました.一方,研究成果と受賞との時間差は25年あるので,新聞紙上では,今世紀に入っての日本人受賞ラッシュは過去の遺産の賜物で,日本の論文数・引用数のシェアの減少から,将来は激減するとの記事も話題を呼びました.これに関し,日本全体の論文数の約70%は大学から生まれますが,大学法人化後,事務量の増加,研究費減,研究時間減が深刻であるとの指摘に頷く方は多いことと思います.
研究者を養成する博士課程の人数も減少していることは,以前より指摘されていますが,その主要原因の一つは,博士取得後の就職困難があります.JpGUに関係の深い日本全国の大学と公的研究所の地球惑星科学関係の全正規職員は1800人程度なのに対し,この分野で博士を取得する人は毎年 110人程度となっています.
科研費を使用して実施された「教育費をめぐる世論の社会学」の研究によると, 日本の高等教育への公的支出は極めて少なく(対GDP比で3.8%)OECD(各国平均は5.8%)の最低水準にあります.日本では,「貸与型」も奨学金と呼んでいますが,OECDの標準からすると,学生補助の主役は給付型奨学金で,返済する補助金は「ローン」と呼ばれて区別されています. 日本の280万人の大学生が支払う「授業料の総額(2.4~3兆円)」を無償にするには,消費税1.2~1.5%の相当額となります.知る人は少ないですが,ヨーロッパでは,「高等教育は社会の発展を担う次世代への投資」と考え,大学の授業料が無料である場合が多いとのことです.一方,日本では75%の人が「大学教育は個人に利益があるので,費用は個人(家族)が負担すべき」と考えて
いるそうです.しかし,学生が大学に進学・卒業することで,その人が生涯に支払う税金は約1,500万円も増加します. そこで,高等教育は個人のみならず社会的利益にも直接結びついています.さらに,革新・高度技術の世界を切り開くという側面も加算されるのですが,これらの事項が過小評価されています.
世論調査によると,税金の投入に関し,「教育は増税までして整備してほしい領域とはみなされず」,「医療・介護→年金→雇用→教育」の優先順位となっています.さらに,「教育」では初等・中等教育支持が優勢であり,「教育」は選挙を通じての政策になりにくいのが現状だそうです.
政策の決定基準として重要な要素には,政治的側面として「平等」,経済的観点より「効率」の2点があります.「高等教育は自己負担主義」であるとの施策が継続すると,所得の低い層が高等教育を受けることが経済的に難しくなり,この施策は逆累進性として機能してしまいます.
連合大会では,毎年,大会の初日(週末)に,「パブリックセッション」を「入場無料」で実施してきています.ここでは,地球惑星科学の最先端で社会にも役立つ研究成果公表を積極的に展開しています.また,災害の多い日本において地球惑星科学を行うという意義を鑑み,地球惑星科学研究における行動規範(Geoethics)を策定しつつあります. JpGUの「一般向けセッション」を,お近くの方にもぜひ宣伝していただければと思います.