山崎 俊嗣 【教授】専門:古地磁気・岩石磁気学、 海洋底地球物理学、海洋地質学

研究内容

 

私は"Sea-going scientist"として、これまで多くの航海(航海リスト→)に乗船し、さまざまな海域で調査を行ってきました。今後も海のフィールドを基本とした研究を続けていきたいと思います。

修士・博士課程の研究としては、以下のようなテーマが考えられます。これらには、海洋調査船で観測したデータや海底から採取した試料を用います。実際に海洋調査船に乗船することができます。古地磁気・岩石磁気学の応用範囲はとても広いので、この他にも興味に応じていろいろなテーマの設定が可能です。陸上の地質を研究対象とすることも可能です。好奇心と忍耐力のある学生を歓迎します。当研究室を志望する方は、新領域創成科学研究科・自然環境学専攻に進学する必要があります。

(研究テーマ例)

過去の地磁気強度の研究(例えば、始新世の相対古地磁気強度変動、後期白亜紀~古第三紀の絶対古地磁気強度、地球軌道要素との関連の可能性、など)

太平洋赤色粘土の古地磁気・岩石磁気研究、特に高レアアース含有量との関係

走磁性バクテリア起源マグネタイトの研究、特に堆積残留磁化獲得機構との関係

環境岩石磁気学手法による古海洋学研究(例えば、Mid-Eocene Climate Optimumを対象)

フィリピン海プレートの発達史(磁気異常などの手法を用いる)

下部地殻、上部マントルの磁化構造

   


1.海底堆積物を用いた古地磁気強度の研究

 海底堆積物から古地磁気強度の相対的な変動を求める研究は1990年代頃から発展し、これまでに過去約300万年間の変動の概略が明らかとなっています。これにより、地磁気は極性が一定の時でも、強度は大きな変動を繰り返して来たことが明らかとなりました(図1)。そして、地磁気強度が極小の時に、地磁気方位が大きくゆらぐ「地磁気エクスカーション」が起きたことも明らかとなりました。古地磁気強度変動の標準曲線が確立すると、これとの対比により海底堆積物コアの年代推定を行うという重要な応用が開拓されました。さらに、時系列解析から、地磁気変動には地球軌道離心率などの地球軌道要素の周期が含まれていて、地磁気変動が地球軌道要素あるいは古気候変動に影響されている可能性(Orbital Modulation仮説)が指摘されました。もしこれが真実なら、地磁気変動のエネルギー源が核の外にもあることになり、地磁気ダイナモを理解する上で極めて重要です。しかし、この仮説には、地磁気のレコーダーとしての堆積物の性質が気候変動の影響で変化し、それが古地磁気記録に混入した見かけのものであるとする反論があり、国際的に議論が続いています。私は現在、堆積物の性質の変化がどのように、どれくらい古地磁気記録に影響するのかを明らかにする研究を、堆積物から相対古地磁気強度を求める手法の検討も含めて行っています。また、過去300万年より古い時代に遡って相対古地磁気強度記録を得るための研究も行っています。

図1 過去80万年間の古地磁気強度変動曲線Sint800及び、
          強度極小と報告されている地磁気エクスカーションとの対応(矢印)

2.岩石磁気手法の古海洋・古環境研究への応用(環境岩石磁気学)
 古地磁気・岩石磁気学は、地質学・地球物理学のみならず、古海洋学や生物学などにも応用範囲を持っています。環境岩石磁気学は、ほぼすべての堆積物に含まれている強磁性鉱物をトレーサーとし、岩石磁気学的なプロクシーを用いて、古海洋・古環境推定を行う分野です。私は、走磁性バクテリア起源のマグネタイトに今特に注目しています。海底堆積物に含まれる強磁性鉱物として、走磁性バクテリア起源のマグネタイト(図2、磁石化石magnetofossilと呼ばれます)は、これまで考えられてきた以上に普遍的であり、量的にも重要であることがわかってきました。最近の私たちの研究の一例として、南大洋の堆積物に含まれる磁性鉱物は、走磁性バクテリア起源と風成塵起源のものからなり、前者の方が量的に卓越していること、氷期に風成塵フラックスが増加したことが鉄肥沃化による海洋の生物生産量の増加をもたらし、それが走磁性バクテリア起源のマグネタイトを増加させたことが推定されました。

図2(右)
南インド洋の海底堆積物から抽出された走磁性バクテリア起源のマグネタイト


3.ホットスポットの運動とマントル・ダイナミクス研究
 国際深海掘削計画(ODP) Leg 197による天皇海山列掘削のコアを用いた古地磁気研究から、ハワイ・ホットスポットは80~50Maの間に約15度南下した、つまり、従来考えられていたようにホットスポットの位置はマントルに対して固定されているとは限らないことが明らかとなりました。これを説明するため、マントルの大規模な流れによりプルームが揺らぐとする”Mantle wind model”が提案されました。このモデルを検証するため、ハワイ天皇海山列と並び太平洋プレート上の主要なホットスポット軌跡であるルイビル海山列の掘削が統合国際深海掘削計画(IODP) Expedition 330で行われ(図3)、私は共同主席研究者として参加しました(2010年12月~2011年2月)。Mantle wind modelでは、ルイビル・ホットスポットはハワイ・ホットスポットと異なりあまり南北に移動しなかったと予想されます。74~50Maの4つの海山の古緯度を明らかにするため、乗船した4人の古地磁気研究者が現在共同で測定・解析を行っています。並行して、私は白亜紀後期から古第三紀の古地磁気強度を求める研究も行っています。

図3(右)
IODP Expedition 330 ルイビル海山列掘削地点


4.フィリピン海プレートのテクトニクス研究
 フィリピン海プレート(図4)東縁に位置する伊豆・小笠原弧は50Ma頃に誕生したと考えられるが、なぜどのように誕生したのかを解明するためには、当時のフィリピン海プレートの位置、形状、方位などを知る必要があります。しかし、フィリピン海プレートはほとんどが海であり陸上の古地磁気学手法が使えないこと、ホットスポット軌跡が存在しないこと、かなりの部分がすでに琉球海溝などから沈み込んでしまったことなどの理由から、その発達史(特に、約30Maの四国海盆・パレスベラ海盆の拡大開始以前)はいまだに不明の点が多くあります。また、フィリピン海プレートは、西南日本弧・琉球弧下への沈み込みを通じて日本列島の地質構造発達史にも影響を与えてきたはずであり、その理解のためにもフィリピン海プレート発達史の解明は重要です。そこで私たちは、フィリピン海の掘削試料を用いた古地磁気研究を行うとともに、いまだに現代的な調査の空白域が多く残っている西フィリピン海盆南部において地磁気異常観測、精密地形調査などを行い、フィリピン海プレートの発達史の解明を目指しています。

図4(右)
フィリピン海プレートの海底地形図




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