川幡 穂高
東京大学 大気海洋研究所
教授

(大学院担当は東京大学大学院理学系研究科,地球惑星科学専攻,地球生命圏)
(大学院生は,理学系研究科,地球惑星科学専攻,地球生命圏を受験して下さい)

専門:水環境(陸海)、物質循環、古環境・古気候、
サンゴ礁の沿岸環境、生物の精密飼育実験


「水環境を含めた地球表層環境の進化と人間社会への影響」 - 5つの環境から地球を探る -

概要:

 地球は水惑星と呼ばれており,地球表層環境と水は密接に関わっています.私達の研究室では,(1)陸海の水環境解析(生物地球化学を含む),(2)新同位体と物質循環(鉱物資源を含む),(3)地球環境の人類進化や人間社会への影響評価,(4)精密飼育実験を通じた将来の環境予測について,研究しています.

(1) ラムサール条約に含まれる水環境(河川,湖沼,湿地,地下水,サンゴ礁など)を研究対象としています.日本国内のみらず,ガンジス川など海外の大河川や地下水の調査を積極的に実施するとともに,それらの海洋への影響を解析しています.現代の人為起源の環境変化が最初に表れる地域は陸域です.将来の地球環境を占う上で重要です.

(2) 物質循環と鉱物資源の形成は密接にリンクしています.現代の鉄のほとんどを供給する縞状鉄鉱床は約25億年前の地球環境変化により形成しました.リチウムやホウ素の大鉱床も塩湖を中心として,地球環境が作りだしたものです.リチウム,ホウ素,マグネシウムなどの新同位体分析を駆使しながら,資源から環境まで含めた物質循環研究を目指しています.

(3) 人類の発生と進化,人間社会の変遷は地球環境による影響が大きかったと推定されています.気温,降雨などを定量的に復元し,気候の人類への影響を解析します.現在最も力をいれているのは,歴史時代の人間社会の進化と環境との関係です.

(4) 大気中の二酸化炭素の増加は海洋酸性化をもたらし,将来,炭酸塩殻生物が絶滅に至ると予想されます.将来予想される
環境条件で,サンゴ,有孔虫などを,精密に水温,水質などをコントロールした飼育実験を行ってきています.精密実験
の応用として,古環境間接指標の開発も行っています.これを用いて古環境復元を行います.基本的に気候変動はエネル
ギー輸送と水循環変動,環境変動は気候変動+物質輸送(循環)によって支配されます.これまでも,海底堆積物やサン
ゴ骨格を用いて,多くの古環境解析を実施してきました.

 今後はこれらの研究を発展させ,生物を含めた地球表層環境は,これのみで閉じた系ではなく,マントルも含めた地球深部と地球表層が相互に影響しあって今日の生物圏を含めた地球環境を作っているという「WHOLE EARTH 物質循環と地球表層環境の進化」を探求し,新しいパラダイムに到達したいと思っています.

ラムサール条約に含まれる水環境http://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/

テーマに関連したフィールド調査など:

(1)河川+地下水(ガンジス川,ブラマプトラ川,メコン川,長江,西表島の河川,石垣島の河河川,中国地方の河川,
四国の河川など)

湿地(釧路湿原,厚岸湖・別寒辺牛湿原,霧多布湿原,サロベツ原野など)

湖沼(猪苗代湖,霞ヶ浦など)

サンゴ礁(石垣島,沖縄本島,セブ島など)

(2)塩湖および岩塩(死海,トルコのホウ素・リチウム鉱床,アンデス山脈塩湖など).

(3)陸上(奈良盆地)

淡青丸航海(日本周辺海域,大阪湾,広島湾,陸奥湾,東京湾など)

白鳳丸航海(南シナ海,西太平洋,日本周辺海域など)

(4)琉球大学瀬底実験所,赤道太平洋,中部太平洋


 研究については,このホームページをご覧くださると詳しくありますが,その他に授業などで使用した題材を日本語で読みやすい形でも掲載しています.

1)現代の環境と資源問題,■1 [クリックしてください.Pdfファイルが読めます.]

2)縄文の環境と縄文人の生活,■2 [クリックしてください.Pdfファイルが読めます.]


大学院生・若手研究者を歓迎します

 当研究室では,地球地質学的および化学的手法を駆使して広義の生物地球化学(Biogeochemical)と地球環境(Global environments)の変遷に関して,先端的な研究分野の開拓を目指して活動しています. 観測船やサンゴ礁でのフィールド,実験室での精密同位体および化学分析を通じて,過去から現在にいたる地球環境の変遷と海洋の地球化学サイクル発展と生物の進化等に与えた影響の解明をめざしています.

 この分野の探究に意欲ある若手研究者(博士研究員(PD)),および大学院生(M, D)を歓迎しています.

大学院は,理学系研究科・地球惑星科学専攻(地球生命圏科学グループなお,当研究室を受験する時には,志望欄の
「地球生命圏科学グループ」に○をつけてください.)http://www.eps.s.u-tokyo.ac.jp/)を受験して下さい.

また,ご関心のある方は,どうぞ気楽にメール等で連絡下さい.
研究室の見学なども可能です.

研究室の具体的な活動について理解しやすいと思いますので,現在院生などが行なっているテーマについて記します:
略号,卒=卒業研究,M=修論,D=博論. 

ラムサール条約 水環境(広義の炭素循環)

1)島をモデル地区として設定した陸海相互作用 - 地下水による酸性雨の中和と栄養塩の供給 -(M07-08)

2)土壌や二次鉱物生成と湧水の河川および海洋に与える影響(卒09)

3)酸性・アルカリ湖におけるpH支配因子としての栄養塩(卒10)

4)釧路湿原における炭素循環(M11)

5)中央構造線などの活動帯が風化に与える影響(卒11)

6)ガンジス・ブラマプトラなどの大河川の海洋に与える影響(M11-12)

7)沖縄県地下ダムの水環境(M11-12)

精密飼育実験(モニタリング環境下で生物を飼育)

1)翼足類の海洋酸性化による影響(M09-10)

2)サンゴの精密飼育と海洋酸性化(M08-09,M09-10,M11-12)

3)サンゴの精密飼育実験と骨格への環境記録(M07-08, M10-11)

4)円石藻の精密飼育と炭素循環(M07-08)

5)有孔虫の精密飼育と古環境解析(PD09)

6)珪藻の精密飼育と海洋酸性化(M07-08)

7)生物起源炭酸塩と同位体の分別機構の解明(PD) 

8)アワビにおける母貝の成長と真珠層の発達(M07-08) 

9)黒真珠貝の成長と真珠層の発達(M07-08) 

10)海洋酸性化と沿岸生物への影響(M06-07)

古環境および古気候変動解析(歴史時代とともに長期の変動)

1)歴史時代(古墳時代より江戸時代)の日本の都の環境復元(M11-12)

2)西日本の縄文時代の環境復元(M10-11)

3)三内丸山遺跡の盛衰と環境変動(M06-07)

4)奈良盆地における東大寺大仏の建立に伴う環境変化の研究(卒11)

5)サンゴ津波石を用いたGeohazard復元(M09-10) 

6)石垣島サンゴ骨格を用いたアジアモンス−ンの復元(PD07)

7)フィリピンサンゴ骨格を用いたアジアモンス−ンの復元(卒09)

8)後期第四紀の三陸沖混合水域における環境変動(PD07)

9)後期第四紀の北西太平洋における環境変動(M-D05)

10)サンゴ骨格を用いた氷期の高時間解像度の環境復元(M06-07)

11)サンゴ骨格の間接指標の検討(卒08)

12)サンゴ骨格を用いたインドネシアにおける汚染解(M08-09)

資源・熱水変質・資源

1)キプロス・オフィオライトの熱水活動と表層環境への寄与(M09-10)

2)オマーン・オフィオライトの熱水活動と地下生物圏(D07-09)

3)海底熱水鉱床におけるホウ素同位体に関する研究(M10-11)


研究内容

0. 三内丸山遺跡の盛衰と環境変化 -過去の温暖期から将来の温暖化を考える-
1. 都市・沿岸環境
2. 現代地球環境
3. 古環境
4. 生物体内環境(生物鉱化作用=Biomineralization)

5. 海底下環境



0. 三内丸山遺跡の盛衰と環境変化 -過去の温暖期から将来の温暖化を考える-

0.1 概要:

陸奥湾で過去の環境復元を行った.三内丸山遺跡が栄えた約5000年前は,現在より2.0℃ほど温暖化してクリなども沢山実っていた.しかし,4200年前に突然寒冷化(2.0℃)したため,人々は遺跡を放棄し,散逸した.同時期東アジアの文明も乾燥や寒冷化のため衰退した.今世紀末までに気温は2.0℃位上昇すると,農林水産業には大きな影響がでるかもしれない.

0.2

第1図:三内丸山遺跡における水温,気温(花粉分布)の変遷.4200年前に水温が急激に下がったことがわかる.

第2図:2.0℃という水温,気温差は緯度方向で230kmに相当する.縄文中期には青森県でもりっぱな実のなる栗林があったと考えられる.


0.3 発表雑誌:

Kawahata, H., Yamamoto, H., Ohkuchi, K., Yokoyama, Y., Kimoto, K., Ohshima, H. and Matsuzaki, H. (2009) Changes of environments and human activity at the Sannai-Maruyama ruins in Japan during the mid-Holocene Hypsithermal climatic interval. Quaternary Science Reviews., 28, 964-974.(2009年5月)
東京大学海洋研究所古海洋シンポジウム(2010年1月)

1. 都市・沿岸環境

 熱帯海域の沿岸域(サンゴ礁,マングロ−ブ,普通の海岸)は,豊富な生物多様性により,地球表層の生物圏の重要な位置を占めています.しかし近年,陸・海域での無秩序な人間活動や,多様化した社会に応じて大気・海洋へと排出される様々な危険化学物質により,世界のサンゴ礁域の約半数が崩壊の危機にさらされています.人間活動の影響は都市域ばかりでなく,周辺の低緯度域海洋にも及んでいると考えられます.

1.1 環境ホルモン

 ノニルフェノ−ルやビスフェノ−ルA等の内分泌撹乱物質は,環境ホルモンと呼ばれており,ホルモンではないがホルモン様の作用をすると言われてます.私達は熱帯海域の沿岸域がこれらの化学物質で汚染されているのか,また,汚染されている場合どの程度なのか等を調べるため,沖縄本島と石垣島のサンゴ礁と近辺(サンゴ礁まで500m以内)河口域で底質試料と水試料を採取し,化学分析を行いました.その結果,

1)濃度は大都市の工業地帯よりは低いものの,すでにこれらの化学物質で河口堆積物と河川水が汚染されていること,
2)これらの化学物質と人口密度との正の相関関係があること,
3)石垣島ではサンゴ礁内でもビスフェノ−ル-Aが底質で検出されたこと,

が分りました.本研究で『見た目にはきれいな』熱帯沿岸域でも環境ホルモンの汚染はすでに始まっており,将来その汚染が進行していくであろうとの見解に至りました.

Kawahata, Ohta, Inoue & Suzuki (2004) Chemosphere, 55, 1519-1527.




1.2 危険化学物質(トリプチルスズ(TBT)化合物)

 船底塗料に用いられる猛毒なトリブチルスズ(TBT)化合物は,燃費を減少させる要因のフジツボなどが船底に付着しないよう開発されました.人為的環境の変遷を明らかにするため,ミクロネシア連邦ポンペイ島浅海域より採取されたサンゴ年輪中の銅とスズを分析し,約40年間の記録を復元しました.この際,私達はサンゴ骨格のアラレ石結晶外に存在している元素が海洋環境を反映するよい指標であることに注目しました.両元素の濃度は1960年代後半から上昇し,1990年前後まで高く,その後急激に減少するという変動を示しました.この変動は,船底塗料使用の歴史的経緯と一致していました.すなわち,1990年以降の環境の改善は1990年前後の先進各国での規制と整合的で,本研究の結果は沿岸環境も人間の努力しだいで改善されることを意味しています.

Inoue, Suzuki, Nohara, Kan, Edward & Kawahata, (2004) Environmental Pollution, 129, 399-407.

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2. 現代地球環境

 太陽のエネルギ−で駆動する現代の生物地球化学サイクルを調べることは,温暖化した将来の地球環境を考えるために重要です.その中でも生物生産活動に関係した,海洋表層から深層への鉛直物質輸送である沈降粒子の量,質,プロセスを明らかにするため,外洋域でセジメントトラップの係留観測を実施してきました.この鉛直輸送のプロセスは,炭素循環研究のみならず,海洋の微量重金属の研究にも密接に関係しています.また,プランクトンである有孔虫の月齢サイクルなどについても解析を行なっています.

2.1 セジメントトラップ観測

 海洋表層の生物活動は,炭素循環を含め,海洋の物質循環の中で主要な役割を演じてきたと考えられています.特に外洋域で堆積した物質の多くは,生物生産に関連して形成された沈降粒子にその起源を有しています.
 例えば,太陽光が透過する範囲である有光層内で生物が生産した有機物が鉛直方向に輸送されるのは言うまでもないことですが,粘土鉱物などの石質成分についてもこれらの生物に取り込まれることにより,表層から急速に深海に輸送されることが確認されています.
 左は緯度方向の変化を調べるために,東経175度の赤道から北緯46度までの粒子束を表わしていますが,黒潮続流域以北で生物起源オパール,有機炭素粒子束が顕著に増加することがわかりました.一方,炭酸塩粒子束は赤道から北緯46度までほとんど変化がありませんでした.そして,黒潮続流域では春季に生物生産が活発になって,その結果二酸化炭素分圧が非常に下がることがわかりました.
 この研究を発展させ,周期的な気候変動,例えばエルニーニョ・南方振動やアジアモンス−ンによってどのように変化するのかを衛星画像と対比しながら研究を行っています.

Kawahata, Suzuki & Ohta (1998) Geochemical Journal, 32, 125-133.

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2.2 月の満ち欠けに対応した動物プランクトン有孔虫の再生産

 石灰質の殻を作る有孔虫の生産が時間とともにどのように変化しているのかを調べるため,西太平洋赤道域の2測点でセジメントトラップ観測を行いました.その結果,G. sacculiferという種が表層から落ちてくる量が最大になる時期は,ちょうど満月に対応することがわかりまし.両地点は140km離れているのに同様な結果を示しているので,偶然でないと思われるます.外洋で月の満ち欠けに対応したG. sacculiferの再生産が観察されたのはこれが初めてです.
 今回,G. ruber,O. universa,G. aequilateralisという他の有孔虫もG. sacculiferの変化と似たプロファイルを示しました.これらの種に共通する特徴は,すべて共生藻をもつ有孔虫であったことです.外洋域でしかも大きさが1mmにも満たない有孔虫がどのようにして月齢を認識するのかについては不明です.
 今回紹介した4つの種は,共生藻をもったグループで比較的温かい海洋環境を好む傾向があります.予察的な計算ではあるものの,全海洋での炭酸カルシウム生産の約2-3% がこれらのグループが担っている可能性があります.ミンラコビッチサイクルなどの氷期・間氷期スケ−ルではなく,現代の生物地球化学サイクルにも天文学的な要素がある程度貢献しているのかもしれません.

Kawahata, Nishimura & Gagan (2002) Deep-Sea Research II, 49, 2783-2801.


[拡大図]

3. 古環境

現在の地球環境は,長い地球の歴史を反映しています.これには,生物地球化学サイクルの変遷も,固体地球に影響を受けた大規模な火山活動も含まれています.現在の地球環境問題のタ−ゲットは長くて100年後の将来予測ですが,そのためにはここ30余年で実施されてきた精密な海洋観測や気象観測のデ−タばかりに頼るのは危険であり,自然のサイクルの歴史的変遷を定量的に評価しながら,現在の地球表層の環境の位置づけをきちんとしていく必要があります.

3.1 近過去の環境復元(サンゴ骨格の分析)

長尺サンゴ試料を用いて現在から過去数百年間にわたる西太平洋低緯度域の環境情報を復元するためミクロネシア〜東南アジア〜オーストラリアにかけての西太平洋低緯度域にてハマサンゴ属 (Porites spp.)の塊状群体の骨格を採取しました.特に、ミクロネシア〜東南アジア海域では、エルニ−ニョ時に水温の低下と降水量の減少が起きます.これに対応して,ミクロネシア各地のサンゴ骨格ではサンゴ骨格の酸素同位体比に顕著な正の異常が認められました.この骨格記録を利用して,チュック環礁から得られた試料についておよそ100年間の酸素同位体比変動を明らかにしたところ,過去のエルニーニョイベントの発生を確認しました.さらに,100年間で約1℃の水温が上昇していたことが明らかとなりました.

Suzuki, Gagan, Fabricius, Isdale, Yukino & Kawahata (2003) Coral Reefs, 22, 357-369.

3.2 10万年スケールの環境復元(ピストンコアの分析)

 中緯度海域は大気・海洋ともに低緯度と高緯度の境界なので,気候変動に非常に敏感です.ヘスライズは日付変更線あたりの中緯度に位置していますが,その柱状堆積物を調べて環境復元を行なった結果,アジア大陸からの風送塵のフラックスの大きな極大は,酸素同位体ステージ4-5後半,6の中期,中程度の極大は, 1初期-2,3後期,3中期に認められました.これらの極大は,夏期モンスーン中の降雨量の減少,冬期モンス−ン中の風速の増大に起因していました.風送塵による海洋表層への炭酸カルシウムの供給に関しては,炭酸カルシウムの溶解により海洋表層の二酸化炭素分圧を下げる効果は小さいことがわかりました.一方,風送塵によって運搬されたシリカの海洋表層への供給は,生物起源シリカの沈積に潜在的な力を有していることが推定されました.また,風送塵からの鉄の供給も生物生産を高める効果があったと推定されます.

Kawahata, Okamoto, Matsumoto & Ujiie (2000) Quaternary Science and Reviews, 19, 1279-1291.

風送塵から計算された生物起源オパール生産量(Fixation)と実際に堆積物で観察された生物起源オパール量(Observed)の比較.

3.3 新生代の初期の環境復元(海洋掘削コアの分析)

 新生代の最大の特徴は寒冷化にあります.しかしながら,暁新世/始新世(P/E)境界では,急激に気温・水温が上昇したとされています.酸素と炭素の同位体を説明するため,メタンハイドレイトなどの崩壊があったのではないかと推定されています.しかし,なぜ崩壊が起こったのかについては不明です.ODP Sites 1220, 1221は1000km以上距離が離れているにもかかわらず,ちょうどP/E 境界の所で,熱水起源の堆積物が認められました.この結果は,熱水活動がきっかけとなったかもしれない事を示唆しています.また,Baに基づく一次生産増大の可能性が指摘されていますが,Baも熱水より供給された可能性が高いです.

赤道太平洋のODP LEG 199で掘削されたセクション.Paleocene/Eocene 境界のところに熱水性堆積物がはさまっており,6つのゾーンが観察された.またこのセクションについて重金属濃度を分析したところ,上下の通常の生物起源炭酸塩に富むゾーンではCaやSrなどが多く、中心部の黒色から茶色のゾーンではMn, Co, Cr, Cu, Zn, Ni,Pbなどの濃度がピークを示した.

[拡大図]

3.4 白亜紀(約1億年前)の温暖期の環境復元(陸上の堆積岩の分析)

 過去地球は,温暖化と寒冷化を繰り返してきました.なかでも,白亜紀はスーパープリュームの活動が活発で,火山活動が高いレベルで維持されていたので,大気中の二酸化炭素濃度が現在の4〜6倍以上で,地球史の中でも最も温暖であった時代の一つであると考えられています.この当時の堆積物はチョークやマールが主なものですが,有機物の含有量が高い黒色頁岩が世界中の地層で広く堆積した事件は,海洋無酸素事変,Ocean Anoxic Events: OAEsと呼ばれています.約1億年前の北海道中部とフランスの環境を調べた結果,北西太平洋とテチス海の比較では,両者の中深層水ともに変質度は高かったと考えられますが,前者では炭酸塩はほぼ溶解してしまっていたが,溶存酸素は残っていたと推定されました.逆に,後者では炭酸塩の保存は良かったが,無酸素水であったことが明らかとなりました.これらの事は,現在のようなひとつの深層大循環(熱塩循環系)モデルでは説明ができず,太平洋高緯度域では冷たい中深層水が,テチス海では比較的温かい中深層水が形成されていた可能性があります.

Yamamura, Kawahata, Matsumoto, Nishi & Takashima (submitted) Palaeogeography Palaeoclimatology Palaeoecology

南フランスの黒色けつ岩

4. 生物体内環境(生物鉱化作用=Biomineralization)

 地球と金星は兄弟星と呼ばれていますが,気温は前者で平均20℃位,金星では最高で400℃位となっています.これは金星の強い温室効果にあります(90気圧でほとんどが二酸化炭素).実は地球では,これに匹敵する量の炭素が炭酸塩(70-80%)等の固体となって貯蔵されています.現在では,炭酸塩の生産のほとんどを生物が担っています.しかし,周囲の環境因子と炭酸塩の形成がどのような関係になっているのかの詳細は不明です.そこで,環境因子を別個に完全にコントロールした精密飼育実験,微小領域の分析,その検証としてのフィールドでの調査が非常に重要となってきます.

4.1 サンゴの飼育実験

 サンゴ骨格の酸素同位体比と周囲の環境(例えば,水温と水の酸素同位体比(塩分と相関))の定量的な関係を調べるため,恒温水槽を用いて環境を制御しつつサンゴを飼育しました.その結果,たとえ同一海水,同一温度で成育した群体間でも酸素同位体比の1パーミル以上の大きな違いが見られました.一方,各群体の酸素・炭素同位体比と骨格の直線成長速度との関係を調べると,負の相関関係が明瞭に認められました.これは条件によっては,酸素同位体比が,水温よりもむしろ骨格成長速度に規定されることを意味しています.この事実により,反応速度論的同位体効果の卓越が予想される他の炭酸塩殻(たとえば深海サンゴなど)から古環境を復元する場合の解析方法について慎重な取扱いが必要です.今回の結果は,精密な飼育実験を行なったからこそ明らかになって事実であり,フィールドでの試料の採取と解析の限界を示しているとも言えます.

Suzuki, Hibino, Iwase and Kawahata, (2005) Geochim. Cosmochim. Acta, in press.

4.2 真珠

 真珠は生物が作った宝石で,古来日本人にとって非常に身近な存在です.真珠は,アラレ石と有機物層が何千層と互層している特殊な構造をもっているので,独特の光沢を有しています.母貝のアコヤ貝の殻の組成は炭酸カルシウムですが,アラレ石と方解石の2種類の炭酸塩鉱物より構成されています.真珠と母貝の生物鉱化過程(Bio-mineralization)を地球化学的見地より詳細に調べた研究はほとんどありません.
 酸素同位体比から,本研究で用いた真珠は6月頃の水温23℃の条件下で形成したと推定され,サンゴ骨格で顕著な速度論的効果はほとんど認められませんでした.炭素同位体比は理論値よりも低く,餌由来の炭素の寄与があるためと解釈されました.今後は黒真珠などについても研究を広げていく予定です.

Kawahata, Suzuki & Inoue & Suzuki (submitted) Geo-Marine Letters

5. 海底下環境

 飼育サンゴの場合にはアラレ石の酸素同位体比は25℃で同位体平衡より-5.18‰ずれていた.この仕組みは速度論的効果(Kinetic effect)のためと説明されている.特に、沈積速度が大きい場合にはその効果は大きいと言われてきたが,サンゴの場合の沈積速度は1年に平方cmあたり約0.1gであるが,真珠の場合にはその値が0.2-1gである.しかしながら,本研究で真珠の場合にはほとんど同位体平衡で形成していたことが明らかとなった.理由はまだ不明である.

5.1 海底熱水循環系の環境

オマーン・オフィオライトから採取された海洋地殻岩石は地層学的に5種類に分類されました:

(1)風化を受けた玄武岩,(2)鉱床中にある熱水変質玄武岩,(3)ダイアベースとプラジオグラナイトからなる相,(4)斑れい岩相,(5)超塩基性岩.その変質温度はそれぞれの相の二次的鉱物の組み合わせより,風化した玄武岩相では100℃以下,ダイアベースなどの緑色片岩相では200〜400℃,斑れい岩層で400℃以上と推定されました.そして,海洋地殻深くまで海水が多量に浸透し,熱水変質を起こしていたことがわかりました.キプロスのオフィオライトの私達の研究も考慮すると,鉱床を形成する重金属の起源として,従来はは海底下2Km位までのドレライトとされていましたが,斑れい岩も重要で,海洋地殻深部の変質も鉱床の形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなりました.

Kawahata, Nohara, Ishizuka, Hasebe & Chiba (2001) Journal of Geophysical Research, 106, 11,083-11,099.

5.2 熱水系に存在する地下生物圏-アミノ酸の熱的安定性条件と生命発生の束縛条件-

1) 熱水循環系は堆積物層とともに地下生物圏の存在する場として重要ですが,深海および陸上掘削が限られているためフィ−ルドからの情報は極めて限られています.そこで,地球上の生物の主要構成物質として最も基本のアミノ酸について,室内実験を行ないました.堆積物と純粋なNaClの3%の溶液とを100-250℃で,240時間反応させました.その結果,容器内の最初のアミノ酸総量を100%とすると,100℃,120℃,150℃,200℃,250℃の順で分解を免れた量は,それぞれ76%,54%,37%,9.9%,0.7%でした.

2)特筆すべきは200℃と250℃では,240時間後の溶液中にアミノ酸化合物が存在しなかったことです.固相中にわずかにアミノ酸が存在した理由としては,未反応の物質が残った,あるいは粘土鉱物等に保護されたためと解釈しました.以上の結果は,地下生物圏はActinolite-greenschist faciesでは存在が難しく,さらに,地球上に最初に誕生した生命体がアミノ酸化合物を主体としたなら,地球の冷却が進行し,温度が200℃以下という比較的低温条件下で最初の生命が存在した可能性が高いことを示唆しています.

Itoh, Gupta, Masuda & Kawahata (submitted) Organic Geochemistry



→メンバー紹介/川幡 穂高