概要計画MOWALL-CIRMOWALL-BAB(SB/PVB)MOWALL-SS(Vulcan)成果MembersLink

 MOWALLって?

 中央海嶺での海洋地殻生産プロセスの解明は,プレートテクトニクスや地球の物質循環・環境変動に直結する地球科学の根幹をなす問題です.MOWALL計画では,海洋地殻生産プロセスの時間変動を明らかにすることを目的とし,「地殻生産プロセスの多様性と時間変動を制約するのはマントルの化学組成の空間不均質性である」という作業仮説を検証することを目指しています.この研究計画の特色は,海洋トランスフォーム断層の壁面が,過去1000万年から現在に至る海洋地殻〜最上部マントルの連続記録であることを利用する点にあります(MOWALL: Moho Observation along transform fault WALLs). トランスフォーム断層壁面の上部(地殻)と下部(マントル)をセットで時間軸に沿って岩石試料を採取して分析し,さらに地形・重力観測に基づき拡大様式・地殻の厚さの変動を決定することで,海洋地殻生産プロセスの時空間変動と,その要因と仮定したマントルの化学的不均質との対応の解明に世界に先駆けて挑戦します!

 

 海洋性地殻の多様性

 1960年代、プレートテクトニクスの登場により、海洋地殻形成プロセスは発散型プレート境界の現象として統一的に理解されるようになりました.90年代に入り観測が進むと,地殻構造や拡大様式がこれまでの想定以上に多様であることが明らかになり,図に示すような海洋コアコンプレックス(Oceanic Core Compex, OCC)や平滑海底(Smooth Seafloor, SS)などの報告が相次ぎました.現在では,主に数値計算研究の結果から,このような多様性は海底拡大速度と中央海嶺でのメルト供給量との比に依存するとの考えが受け入れられるに至っています.それではそもそも何がメルト供給量とその変動を制約しているのでしょうか?海嶺での物理条件の変化か,マントル物質の空間不均質か?海底下マントルに直接アクセスする手段はほとんどなく,この問いは未解決のままです.私たちは,作業仮説として,海嶺でのメルト供給量とその変動を制約するのはマントルの化学組成の空間不均質であると考えて,研究を進めることにしました.


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 なぜトランスフォーム断層のカベ?

 海洋プレートの横ずれ断層境界であるトランスフォーム断層には,マントルから海洋地殻最上部までの鉛直断面が露出しているだけでなく,断層の走向が時間軸に相当するため,地殻生産プロセスの時間変動が壁面に刻まれています.海洋トランスフォーム断層の壁面が海洋地殻断面の露頭として利用できるというアイディアは古くからありました.しかし,これまでの試みは断層を地殻深部にアクセスする窓として使うもので,海洋地殻生産プロセスの時間変動まで含めた議論の展開という,トランスフォーム断層の特質を活かした試みはほとんどありませんでした.MOWALL計画では,主なターゲットとして中央インド洋海嶺とパレスベラ海盆軸部のトランスフォーム断層を選び,(1)断層壁面の上部と下部に露出する岩石試料をセットで時間軸に沿って系統的に採取して,海洋地殻/最上部マントルの化学組成の時間変化を追い,(2)同時に物理観測(地形,重力)によって拡大様式および地殻の厚さ(マグマ量)の時間変動を明らかにします.

 先駆的な研究

 中央海嶺において数十万〜数百万年スケールの時間変動をトランスフォーム断層に沿って追跡した研究として, 大西洋Vemaトランスフォーム断層におけるBonattiらの研究があります[図参照:Bonatti et al., 2003]. この研究では, 断層崖に沿った高密度の岩石採取と, 重力異常解析による地殻の厚さの推定を実施しています. そして,岩石分析に基づく部分溶融の度合いと地殻の厚さが共に3-4百万年スケールでよく似たパターンの変動をすることが示されました.この研究は,海洋地殻形成プロセスの時間変動を読み解くための窓として,初めてトランスフォーム断層を使った先駆的な研究といえます.ただし, このトランスフォーム断層沿いにはOCCやSSなどの海洋地殻は出現せず,多様な海洋地殻の全体像をカバーしていません.また,なぜこの時間スケールで変動するかについてはほとんど触れられていません.
一方,マントルの不均質については,海底の玄武岩を用いた研究が古くから行われてきており,汎地球規模から局所的まで様々な空間スケールと様々な形態のマントル不均質の描像が提案されています.しかし,観測・試料に裏打ちされた不均質像は少なく,ましてや不均質性の時空間変化についての情報は皆無といってよいでしょう.

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 というわけで、MOWALL です

 ターゲットエリアは

 メインのターゲットは,長期間の変動が追える長大トランスフォームである中央インド洋海嶺のマリーセレストTF(MOWALL-CIR)ですが,パイロットスタディとして近距離にありメルト供給量変動の大きい背弧拡大軸をねらったMOWALL-PV/SVB(MOWALL-IIでは背弧の誕生と滅亡という時間軸を考えてMOWALL-BABに拡張),白鳳丸2019-20の世界一周時に超低速トランスフォームである南大洋バルカンTF(MOWALL-Vulcan)を並行して実施します.